六等星の瞬き

ひっそりと本(児童書)について書きます。たまに雑記も。

極上のつめたい怖さ、石崎洋司作『世界の果ての魔女学校』紹介&感想

悪意と人間の業を感じる何ともつめたい話だった。それでいて美しい文章と情景、安易な残酷に走らない。さすが児童書。

 

石崎洋司作、平澤朋子絵『世界の果ての魔女学校』講談社(2012年)

世界の果ての魔女学校

あらすじ

その学校は世界の果てにある。何もかもうまくいかず、家出したアンがたどり着いたのは世界の果てにあるという、古い魔女学校。

恋人の過去の姿がありありと目に浮かび、苦しむ少女ジゼル。古書店で夏のアルバイトをしながら、「彼」を待つアリーシア。村のつまはじき者で、復讐のときをうかがうシボーン。世界の果てにある魔女学校はどこにでもいそうな、そんな少女たちを狙っている。人間を呪う、立派な魔女にするために―。
石崎洋司作、平澤朋子絵『世界の果ての魔女学校』講談社の単行本帯紹介文より)

ひとこと

上記にあるように、本作は4人の少女の連作集です。言葉遊び的な要素を下敷きにしている部分があり、外国語の語源や意味などがそれとなく散りばめられていて面白い。洋書の翻訳みたいな雰囲気もある。

少女の一人称語りが淡々としながらも、情景を豊かに描写していて読んでいて心地よいです。敬体で書かれているのも良いアクセント。

正統派魔女ものが味わえるのが3話と4話。集団の中で爪はじきにされた人たちや貧しく教養のない人に現世の罪や不幸の責任を押し付け、異端として断罪する。そんな構図が描かれています。

ある話は甘酸っぱい初恋の話かと思いきや深すぎる愛と復讐の話で驚きました。石崎先生の描く愛って割と重めで束縛感がありませんか?そこが好きなんですけどね。

 

全体的に急激などんでん返しなどではなく、昔話や言葉遊び要素を下敷きに徐々に読者に真相を悟らせていく手法にセンスを感じます。他のダーク系作品も読んでみたいし、これからも書いていただきたいなあ。

言葉の持つ力(魔力といってもいいのかもしれない)の不思議さにはっとさせられらましたね。言葉というのは人類の進化に伴って誕生し、人間が変化させてきたものです。でも、近現代に生きる人たちは言葉を基盤にして考え、他人に伝達している。当たり前のように使われる言葉はこの世のすべてを定義づけたり、存在そのものを認識させるだけの力があるように思います。人間の有史以前から存在していた自然現象等であっても、言葉があるからこそ認識として共有されているともいえます。

そういう言葉の魔力に気づかされるような台詞を魔女学校の校長が発していました。普段意識しないような事柄に気づかされるような台詞や会話がさりげなく織り込まれている物語は読んでいて気持ちがいいです。

『黒魔女さんが通る‼』のファン目線考察

※ここから下は青い鳥文庫の同作者『黒魔女さんが通る‼』シリーズと絡めた内容です。

黒魔女さんファンに読んでほしい。

個人的には、同じ作者だからって、違う作品のことを持ち出して語るのはいかがなものかと思います。

ただこの作品に関しては…

  1. 帯に「『黒魔女さんが通る‼』とは、ちょっぴりちがう怖くて切ない魔法の世界。」と銘打たれている。
  2. あとがきで『黒魔女さんが通る‼』シリーズで登場する魔女学校から着想を得たという旨が書かれている。

そのため、がっつり結び付けつつ語ります。普通の一読者目線で読んだとしても質の良い怖さが味わえるのですが、この作品、オールド黒魔女さんファン的には怖さ倍増ですよ…。ほんとに。

話の中に登場する魔法やそのコンセプト自体は黒魔女さんと共通するものが多く、「既視感がある」といってもいいほどです。でも同じコンセプトや魔法を使用していても、展開や結末は全く違って新鮮。だからこそ黒魔女さんのダークサイドや裏設定をあぶり出されているような気分になります。黒魔女さん本編の初期(青龍編~)のあたりでは、割と洒落にならないダークサイド感がありました。一歩間違えると…暗黒になる感じ。それをもっと煮詰めた雰囲気がします。

 

この話に登場する女の子たちは皆「何かのきっかけで道を誤ってしまった黒魔女さんの登場人物」という風にもとらえられます。そもそも黒魔女さんのメインキャラってどこか影があるんですよね。主人公チョコは言わずもがな、明るいギュービッドも肝心なところでは自己犠牲に走りがちな気がします。

 例えば1話、主人公アンは何らかのきっかけで劣等感を抱き、何もかもうまくいかなくなったチョコ。2話・ジゼルの物語では「思い出への強すぎる思いいれ」がキーポイントです。想い出や記憶は人の心に宝物として根付きますが、時に重い枷にもなりうる。かといって忘却してしまう、「何か忘れている」状態も身を切られるほどに辛い…。そういうジレンマを感じました。

そこで心に浮かんだのはチョコとギュービッドの帰着点です。ジゼルの状況はチョコがギュービッドと不本意な別れ方をしたら…ということを想起させました。そう考えるとハロウィーン編は分岐点ですね。仮に不本意な別れじゃなくとも、現在の本編の進度的に二人の絆は盤石です。チョコにいたっては「2人でいること>修行を早く終えて魔力を捨てる」の心境になってますからね…。そもそも魔力を捨てると魔界の存在は見えなくなり、感じられなくなる。黒魔女さんシリーズは忘却魔法を多用するので、当然記憶も消えるのでしょう。となると、シビア。結末が予想できないですね。

本編の結末はどうなるか分からないですが、石崎先生はもともとダーク系のお話が多い印象です。黒魔女さんにハマり始めた小学生のころ『カードゲームの呪い』や『チェーンメール』を読んでいたことと初期黒魔女さんの雰囲気も相まって、私の中ではそういうイメージが強いです。そこを踏まえての勝手な想像なのですが、コメディー作品でも先生だけのダーク系ラスト展開があって、あえて黒魔女さんと全く同じモチーフを使って本作を書いたのだろうかと感じました。

 最後に

色々書きましたが、黒魔女さんシリーズを知っている方も知らない方も、色んな楽しみ方ができる1冊だと思います。怖くて救いがない感じが、他の児童書にはない新鮮味があって素敵です。かといって怖いだけではない面白さがあるので、子供にも大人にもおススメです。

 

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