六等星の瞬き

ひっそりと本(児童書)について書きます。たまに雑記も。

本好きな子供だからといって読書感想文が好きなわけじゃない

夏休みの宿題の代表格、読書感想文。あまり良い評判を聞きません。

親が代筆といういわば古典的な手法に加えて、昨今は宿題代行サービスやメルカリで取引という新手の策が登場しているとか。勿論、読書感想文大好き!という人もいると思いますが、本好き=読書感想文が得意の関係は必ずしも一致しないと感じます。自分の周りを見ていての体感です。

 

 

小学校時代の読書感想文

小学生のころから図書館に入り浸っては色々なジャンルを読み漁っていました。学習系の歴史漫画や子供向けの考古学の本、青い鳥文庫のオリジナル作品、岩波少年文庫偕成社文庫…。日本の古典文学や怪談話。高学年にはヤングアダルト作品の小説、と本は友達でした。

しかし宿題の感想文にはいい思い出がありません。書けないのです。感想ってなんだよ、と思っていました。小学校時代の読書は楽しいという感覚が基礎にあるものだと思うんですね。それなのにわざわざ「感想」を書くために読むなんて…という思いが強かった気がします。

 

読書によって湧き上がる気持ちや心情の変化は言語化できないものも多分に含まれています。そもそも人間の気持ちや想いは本能に近いものであって、それを後から作った言語で表現しているに過ぎないのです。言語教育によって人々の間で気持ちや状況の共通認識ができるようになります。でも本来感想は自分の心のうちに留めておいて良いものだとも感じます。

特に小学生のころはそれを表す語彙を持ち合わせていないから、原稿用紙を前にすると何も思い浮かばず手が止まるのだと思います。

長きにわたって読書感想文が教育現場で用いられているということは教育的効果があるということなのでしょう。その近辺の事情には明るくないので何とも言えませんが、一方で「読書感想文が子供の本嫌いを加速させる」というような論調もありますね。

 

個人的に思う読書感想文のよく分からないポイントのひとつに「あらすじを書きすぎてはダメ」というものがあります。おそらくあらすじを入れないというのは、自由な感想を持った読書を重視しているからだと思います。でも宿題の時点で子供からすると自由さは少ないです。

読書感想文というぼんやりしたものではなく、「要約&自分の意見文」にしてみたらどうでしょう。

まるで高校や大学での課題のようですが、何らかの感想を書くことを要求される読書は「修養としての読書」の一端があるのではないでしょうか。それなら思い切って修養に振り切ってしまえばいいのでは? 自分が読んだ本の中身の趣旨を読み取って、他人に伝えるのは非常に有意義なことだと思います。

例えば…

  • 要約を踏まえて自分の意見や感想を書いてもらう
  • 読む本は何も小説や読み物に限らず、ノンフィクションや文理系の実用書でも良い。
  • その本から派生して気になったテーマがあれば自分で設定して調べても良い。

みたいな感じでどうでしょう?感想文より楽しいと思うけどなあ。 

自発的な感想文は楽しい!

読書感想文に対して不満を述べてきましたが、小学校時代の感想文嫌いには後日談がああります。

読むジャンルはどんどん変わっていきましたが、小学生以降も本は友達です。私は主に図書館で借りて読む乱読派。そのスタイルに変化があったのが大学生の初期。

とある本がきっかけでした。

その本は老境に差し掛かった男(江戸時代基準で)がひょんなことから知り合った女性と恋に落ち、妻子や商売を捨てて駆け落ち…という時代小説です。

あらすじにするとヒドイ感じがしますが、仄暗い美しさが漂います。大学生の自分にとって全く共感ポイントがない設定なのに染みてくる「いい小説を読んだなあ」という実感がありました。

 その時思ったんです。この感情を記録しておきたいと。図書館で借りて読んで返すという流れでは忘れていってしまう本も多いから、これからはノートに感想をつけようと思い立ちました。

誰にも見せないので気兼ねなく率直な感想や意見を書いたり、物語の考察やその後予想をしてみたりと超自由なノートです。

時に良い小説でも不思議と感想が思い浮かばない(言語化できない)ものもあります。その場合は無理して書きません。逆に1冊で何ページも書ける作品もあります。実用書の場合はメモ代わりに使ったりもします。

最初はちょっとしんどかったけれど、いつしか読書に付随する楽しみの一つになっていました。

時折過去のノートを見返すのですが、過去の自分の思考が手に取るようにわかって面白いです。たった数年前のものでも「このころは随分尖ってるなあ」とか思います(笑)。

読み流すだけでなく自分の言葉で書く行為を取り入れることで、より本に対する愛着が増したような気がします。名作文学などを書店で買って読むようになったのも同時期でした。

 

ちなみに上記の時代小説は『海鳴り』上下巻 文春文庫(藤沢周平)です。駆け落ち作品なので逢瀬のシーンがあるのですが、抑制の効いた濡れ場が印象的。江戸時代で姦通罪は重罪なので背徳的なのですが、こんなに生き生きと、美しく書けるんだ…と思った記憶があります。藤沢作品では市井の人々を描いたものが好きで、他には『暁のひかり』という短編集がおススメ。ただ海鳴りの感想はちゃんとしたノートではなく、その辺の紙に書いてしまって、その結果一番記録しておきたかったものを失くすという何とも残念なオチです…。

読書感想文についてなのに、着地点がよくわからない記事ですね。

ともあれ自発的な感想文は楽しいということです。だから宿題で読書感想文アレルギーにしてしまうのはもったいない!そのために書きたくなる本に出逢う、機が熟すまで待つことも大切でないかと思っています。

 

新装版 海鳴り (上) (文春文庫)

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