六等星の瞬き

ひっそりと本(児童書)について書きます。たまに雑記も。

【魔界長編】『黒魔女さんと黒魔術の王』6年生編11巻【感想】

10巻の強烈な引きからの最新刊。軸となる展開は今までになく新鮮で、純粋に面白く、先が気になった巻。当たり巻だと思いました。

目次のテンションでギャグっぽく見せかけているけれど、実際はオカルティズムを感じさせる冒険編ですね。次巻の内容によってはかなりのシリアス展開になりますし。Amazonの商品紹介ページでもミスリードしてくるとは、最近の黒魔女さんは油断できない…。

 

「ぼくを信じて! いっしょに逃げるんだ!」
大形くんに手をひかれ、魔界警察から必死に逃げるチョコ!
まさかのシリアス編? と思ったらダジャレにおかしな黒魔法、
そしてなぞの「すべらない話」対決とおなじみのギャグに大脱力!? 
魔法にかかった6年1組のみんなをチョコは助けられるの? 

ハラハラドキドキ笑って泣ける超ジェットコースター魔界大冒険のはじまり、はじまり~。(Amazonの商品紹介より)

5年生編の魔界長編(シンデレラ、ハロウィーン、クリスマス)を彷彿とさせる要素もありました。

6年1組 黒魔女さんが通る!! 11 黒魔女さんと黒魔術の王 (講談社青い鳥文庫)

石崎洋司作、亜沙美絵、藤田香キャラクター原案。講談社青い鳥文庫。2020年6月新刊。

読む前の予想

10巻のラストで登場した大形とチョコが魔界で逃避行。心を入れ替えた大形を信じるチョコと警戒するギュービッド&桃花の衝突のような、今までにない師弟の決裂が起こると予想。目次に「ショコラ姫」や「血痕」(結婚?)という単語が見えることもあり、いよいよチョコと大形の恋愛展開に向けて大形の浄化エピソードが描かれると思っていました。

実際の11巻のあらすじ

魔王の王冠を盗んだ大形を追う魔界警察。心を入れ替えたであろう大形を信じるチョコ、ギュービッド、桃花。しかし、ひょんなことから大形と3人が別行動することになる。大形は魔界の黒魔法教団「魔ンドレーエ」に狙われている可能性があった。大形を心配して後を追う3人。教団の拠点である「デスキャッスル」を目指す。ラストには教団の指導者「黒魔術の王」が登場して大波乱。

本筋に関わる感想(ネタバレあり)

ギャグに見せかけてしっかり伏線だった

10章「暗黒の騎士と黒曜石の黒魔女」では黒幕である黒魔術の王が登場し、伏線回収&オカルトモードに一転します。ギャグ的な位置づけだと思っていたショコラ姫やオチ武者の下りがちゃんと有効活用されていたことに「凄い」と感じました。

また、驚くべきは大形が改心していたことです。6巻『黒魔女さんの夏休み』の展開からの伏線も回収するとは…。確かに当時、6巻を読んだときは今後の布石と感じる点が多くありましたが、その後5巻かけて急転回させるとは予想の遥か上をいっていました。

これまでも大形の掌の上で転がされていたことが多くありましたけど、今回は良い意味で掌の上で転がされていました。チョコの隣に戻りたい一心で心を綺麗にする修行をしていた。そのために祖父・大形京太郎を蘇らせた。それを周りの人間に悟らせないとは、魔力の強さだけではなく、頭がいいんだなと実感しました。

予想外のシリアス展開

前述の商品紹介からはシリアスを期待していなかったのですが、予想外の展開でした。

黒曜石の力をもつチョコと暗黒の騎士である大形がとある儀式を行えば、強大な魔力が生まれるという。黒魔術の王はその強大な力を手にするために儀式を強制しようとする。

その切り札として黒魔術の王が用意した「未完呪―ス」。そのネーミングからは想像できない凶悪な代物ですね。飲んでしまうと魔力・記憶共に消し去ってしまう。チョコの大切なギュービッドと桃花を人質にとって飲ませようとする。

そのシーンのチョコの一人称語りで記憶が消えるのがどれだけ辛いか、自分のことも忘れ去られてしまう悲しさを読者に示す。そのうえで大形に飲ませるとは…。事故とはいえ、えげつない展開。しかも今回は自分の意志で改心したことが判明したのに皮肉な結果です。

この畳みかけといい、黒魔術の王の下種さといい、個人的には凄く好きですね。絶望感に燃える。黒魔女さん初期のダーク&オカルトを引きずっている読者なので、「こういうのを期待してた!」と思ってしまいました。「魔ンドレーエ」と黒魔術の王にはまた登場してほしい。

大形君は言うまでもなく重要人物ですが、このシリーズの最終的な終着点はやっぱりチョコとギュービッドの修行の結末でしょう。この巻を読んで、ラストに向けてドラマチックな展開が期待できるなと改めて思いました。

 

しかし、黒魔女さんのファンは色んな人がいると思うのですが、大形君ファンや、幸福感を求めている人はこの巻にどういう感想を持つのでしょうか。

「心をきれいにする」、「記憶が消える」というワードから、思い出したのは5年生編の5巻でチョコが大形にかけた「洗濯魔法」。この巻を読んだら「洗濯魔法」のときはまだ平和だったなあと思いますね。

大形君に救いはあるのか?

シリアス展開に燃えた今巻ですが、本当に魔力も記憶も消えて戻らないという展開になるのかは予測できません。さすがにちょっとシビアすぎかなとも思います。次巻以降は大形を救うためのあれこれがあるでしょう。

元師匠の暗御留燃阿が関わってほしいですね。記憶が戻るということは魔界に関する嫌な記憶も戻るということ。そしてそれを最初に植え付けたのは元師匠。ここを克服しなければ本当の救いはない気がします。ただ単にギュービッドと暗御留燃阿の共闘が観たいという気持ちもありますけどね。

桃花ちゃんの根性

冒頭で魔界警察相手にはったりをかけるのといい、ラストといい、大形のインストラクターとして弟子を信じて行動するのが良い。敬語じゃない桃花ちゃんて、なんだか魅力ありますよね。

禁じられた死霊魔術(ネクロマンシー)

死霊魔術(ネクロマンシー)は魔界でも禁止されているという設定が登場。外伝「魔女学校物語1巻」でギュービッドが難しい死霊魔術を成功させていました(相手は人間ではなくシーラカンスですが)。

ギュービッドは禁断の黒魔法の素質があるということでしょうか。今後の展開に関わるかは不明ですが、心惹かれる設定だなと思いました。

後半の『黒魔女さんのクリスマス』感

個人的な印象ですが、チョコとギュービッドがギャグで一目置かれるのは「あ、くま」、チョコが落ち武者の心を開くのは「向日葵」や「ソンセミーシャ」を思い出しました。チョコ、ギュービッド、桃花の3人が目指す場所が「デスキャッスル」なところなど、クリスマス編を思い起こしながら読んでいました。

雑感

本筋は勿論ですが、細部の小ネタも楽しんでいました。感想とも呼べない雑感。

  • 桃花ちゃんの髪は金髪だった…!全く知らなかった。ライトブラウンのイメージが強かった。結構驚きです。
  • 「タンマ」は死語らしい。今の小学生は使わないのか。
  • 「知らんけど」は高等テクニックなのか。確かに関西人はかなり使いますね。あまり考えなしに使ってたけど。東京の雰囲気漂う黒魔女さんでは少し新鮮な感覚。
  • やっぱりギュービッドが好きだ!落ち武者のシーンで優しさを見せるのも、腕に輪ゴム巻いているのに対して「パワー全開って感じでいい」というチョコも。ラストで「大形君を助けてほしい」という取り縋るチョコは切ないな。巻末の「次巻は大活躍」に期待。
  •  以前に比べて、挿絵が少なくなった? 電子書籍で読むようになったので比較しにくいのですが…。今巻は終盤の大形君の薄幸な美少年ぶりが凄かったですね。

ー終わりにー「やっぱり新刊が読めるっていい!」

2巻連続で劇的な引きを見せられて、発売日まで待つ。リアルタイムで追うのは特別な楽しみがありますね。長年の読者ですが、リアルタイムで追ったのはクリスマス長編前後と藤田先生の訃報後からなので、既刊のほとんどはまとめ読みです。

ただ最近の巻を読んで思うのは「遠くない将来、最終巻を迎えるだろうなあ」という予感。大形君の問題に決着がついたら、いよいよチョコの修行の結末に突入しそうです。チョコは現在二級ですが一級黒魔女になったら魔女学校卒業レベルに相当、初登場時のギュービッドの一段階下でしかないので、十分に一人前ですよね。

昔の読者が再読するなら、今のタイミングだと思います。

 

ここまでお読みいただきありがとうございました!

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