【紹介】テレパシー少女蘭事件ノート(続編は無いのかな…)
超能力を持つ中学生の少女、蘭と翠を中心としたSFライトミステリー。
あさのさんの作品といえば『バッテリー』『NO.6』や時代小説が有名ですが、このシリーズもおススメです。
1巻は1999年に刊行、しかし9巻でぷっつりと途切れてしまっています。9巻が完結という訳でも無さそうでした。今後続刊は出ないのでしょうか。NO.6やX-01はその後も刊行されているので講談社とのいざこざもないだろうし…。いずれにせよ、既に青い鳥文庫の公式サイトやカタログに載っていないのが寂しいです。
全9巻(Amazonの書影使用)
上の写真の表紙と中の挿絵は少しテイストが異なります。版が浅いものでは、表紙絵も挿絵と同じ雰囲気でした。表紙のみが後から刷新されたようです。図書館等には古いバージョンの本が置いてあるかもしれません。どちらの絵も味が有って素敵ですよ。塚越文雄さんの挿絵好きです。可愛くて味が有って、見たらすぐにわかる感じですね。
ストーリー
中学生の蘭と翠は超能力を持っている。人の心の声が聞こえたり、この世のものでない何かが視えたり…。故に厄介な事件に巻き込まれることもある。
人の情が引き起こす様々な事件。切なく悲しい真実や強い想いに触れ、時には悩みつつも果敢に事件を解決していく。蘭の幼馴染でボーイフレンド・留衣や蘭の兄・凛を含めた4人が織りなすSFミステリー。架空の地方都市、蔦野市が舞台。
1話完結なのでどこから読んでも大丈夫。だけど、4人の関係の変化はしっかり描かれている。1巻開始時点では赤の他人同士だった蘭と翠にもかけがえのない友情が生まれていく。
登場人物
磯崎蘭:柔道が得意な明るい中学生。表紙ではショートカットの少女。超能力を持っている。
名波翠:超能力を持つ美少女。表紙ではロングヘアの少女。蘭の親友。一見クールだが、ギャップあり。関西弁が出る。凛のファン。
綾瀬留衣:蘭を優しく見守る無口なボーイフレンド。頭脳明晰。表紙の少年。
磯崎凛:蘭の兄。料理が得意。高校生。好奇心が強く事件解決に乗り気だが、妹の心配もしている。
言葉にするとどうしても記号的な印象になってしまいますが、要約しきれない持ち味のある人物が登場する物語です。この4人の内部でもそれぞれ異なる関係性があります。
組み合わせによって雰囲気が違います。この4人で漫才さながらのやり取りも、シリアスも、ほのぼのもなんでもいけますね。
個性的なその巻限りの人物も見所です。渦巻く人間の欲望や切なる想いが事件を引き起こすわけですが、悪役は悪役のまま突っ走ってくれる印象があります。簡単に改心しません。脇役として登場する蘭と凛の両親は暖かくて良いアクセントです。
ここが好き!ポイント
舞台や話のテイストが豊富!既刊一覧
全体のテイストはSFライトミステリーですが、巻ごとの舞台も話も異なります。だから全く違う雰囲気が楽しめるのです!既刊9巻の概要と見所をまとめてみました。
①ねらわれた街
蘭と翠の出逢い。初めは友好的な関係ではなかった2人がいかにして距離を詰めていくのか。中学1年、新生活の期待と春特有の気怠さが入り混じる雰囲気がリアル。本筋では事件解決、ディティールとして香りの描写が印象的。
②闇からのささやき
風光明媚な山村に招かれた蘭・翠・留衣・蘭の父、論平。村長である滝沢は論平の学生時代の友人。村に自生する「エマヒクサ」を食用として売り出したいと考えていた。幻の草といわれているエマヒクサ。調べるほどに謎が深まる。蘭と翠の力の感覚にも差異が生じ始めて…。意外な黒幕登場、翠に危険が迫る。切なく悲しく、どこか美しいラスト。
③私の中に何かがいる
憑依系⁉と思わせるタイトル。動物や自然が絡み、予想のできないストーリー。シリーズ中で最もSF色が強め。ありえない設定だけど、不思議とすっと入ってきます。旅先での事件解決が多いこのシリーズの中では珍しく、学校生活と蔦野の街がメイン。同作者『NO.6』のラストと通ずる構造とメッセージがあるように思います。
④時を超えるSOS
少し時代を感じるタイトル、味が有って好きです。舞台の大半は江戸時代。フリーマーケットで見つけた不思議な文箱が留衣を江戸時代に連れ去った!軟禁された屋敷の近辺では怪しい動きがあって…。主の悪事、連続殺人、正体不明の〝闇鬼”。孤軍奮闘する留衣 と 時を超えて助けに向かう蘭と翠が江戸の闇を暴く。蘭・翠・留衣の普段の掛け合いと時代小説らしい情感が全く違和感なく馴染むのがすごい。
初版から4年後の2006年から、あさのさんは一般向け時代小説の執筆を始めています。時代小説でも情景・心情描写が光っています。
⑤髑髏は知っていた
白帆町の山奥、土砂崩れ現場で見つかった人骨。無縁仏として処理されたが、奇妙な事実が隠されていた。蘭たちは行方不明になった凛の同級生の叔父を捜しに白帆町へ。人骨をカギに思わぬ事実にたどり着くのであった。
人の業と民間伝承が絶妙に混ざり合っています。テンポの良い4人の掛け合いですが、その中に個々の価値観や得意分野の相違がみられる巻です。
⑥人面瘡(じんめんそう)は夜笑う
不思議な力に導かれた4人は人面瘡の謎を追う。導入の「ブタ肉早食いコンテスト」に出場する翠の場面から。コメディ感からの転換が好き。夏の夜、呪われた旧家、因習、座敷牢…。おどろおどろしい舞台装置は万全。横溝ミステリのような雰囲気を醸しつつ、心温まる場面や希望も描かれます。
⑦ゴースト館の謎
花火大会の最中、自殺未遂をする男を救った4人。男は老舗旅館の経営者。なんでも旅館に幽霊騒ぎが持ち上がり、運悪くお客が心臓発作で亡くなった。経営は傾き、倒産寸前…。蘭と翠の力で幽霊騒ぎの真実を暴く。
過去と現在が交錯し、幽霊騒ぎは思わぬ核心に迫っていきます。 蘭は幽霊に人気、ファンクラブができているそうです(笑)。
⑧さらわれた花嫁
冬休み、蘭は商店街の福引で南海の孤島「蛇の目島」への旅行を当てる。蘭、翠、留衣、凛は旅行へ出発する。蛇の目島には不思議な力を司る蛇の伝承があった。蘭たちの旅行に居合わせた人物がその不思議な力を狙っていて…。蘭たちの身にも危険が迫る。
雰囲気としては最終巻のような清々しさがある。留衣と翠の協同、凛の実力行使、留衣の説得(復讐を止めるため)など、様々な見所がある。ラストの纏め方が美しい。
⑨宇宙からの訪問者
4人がとある星から来た宇宙人(!)と遭遇する話。その宇宙人は実体を持たず、無機物に憑依して行動する。宇宙人の星は高文明だが、識別は番号で行われ、個人が限りなく均質化されているという。そんな星に反感を持っている宇宙人が蘭たちの力を借りて一歩踏み出す話。
宇宙人とは言っているが、未来に起こりうるかもしれない人間の超管理社会を隠喩している気がする。登場するモチーフが読者の意表を突く感じで面白い。宇宙人がキーワードなだけあって、前8巻までとは少し毛色が違う。何でこの後、続刊が出ないのでしょう?
各巻、お気に入りの部分があるので、一番好きな巻は選べません。
ファンタジー と 現実感 の融合
不思議な存在や力が登場するけれど「事件を起こすのはいつも生身の人間」というスタンスです。超自然的なファンタジー要素には必ず、人の欲望や利己心が絡んで事件が起こります。
超能力で解決する部分と地道に推理する部分がバランスよく存在しています。頭脳明晰な翠と留衣が推理担当。派手なトリックではなく、身近な引っ掛かりから驚きの真相に迫る分、余計に面白さがあります。
凛は平凡に見えるけれど、有能な兄貴です。将来一番出世しそうなタイプですね。蘭は禍々しい事件に対し、マイナスな気持ちを抱きつつも、正義感が強くて面倒見が良い。子供にとっての親しみと憧れを両立している主人公です。
シリアス と 明るさの絶妙なバランス
題材として殺人や行方不明、人の悪意等も多いのですが、希望に向かうラストも多いです。幻想・恐怖・禍々しさも表現する情感豊かな文章 / コメディ色強めの掛け合い / 推理・状況説明 / ティーン向けらしい爽やかな文章 をピンポイントで使い分け、人物描写にも児童書ならではの匙加減が効いています。一冊の情報量が多く様々な要素が詰め込まれていますが、小学校上級から無理なく読めるのが凄いです。
あと、このシリーズは「超能力=格好良い」とするのではなく、人と違うことの葛藤、ともすると排除されるかもしれないという暗部に言及しています。シリアスな部分では大人になってから実感を伴って理解できる内容も多いのではないかと思います。
最後に一つ。この作品はNHKでアニメ化されています。当時、一話限りで視聴をやめてしまったので何とも言えませんが、留衣の魅力は小説の方が伝わります。アニメではただのイケメンになっていて「ええ…」と思いました。全体としてキャラクターデザインも小説の方が好みです。でも最近知ったエンディング曲「ポラリスの涙」は凄く良いですね。