六等星の瞬き

ひっそりと本(児童書)について書きます。たまに雑記も。

名木田恵子作、武田綾子絵『天使のはしご』(全5巻)青い鳥文庫の隠れた名作

『天使のはしご』という青い鳥文庫シリーズをご存知ですか? 

2002年に初版発行されたシリーズなのですが、愛と赦しを描き切る超名作なのです…。対象年齢小学校高学年からですが、容赦ない展開が繰り広げられます。残酷な運命に傷つき、苦しみながらも生き抜く主人公の成長物語。おすすめできます。

天使のはしご〈1〉 (講談社青い鳥文庫)天使のはしご〈2〉 (講談社青い鳥文庫)天使のはしご〈3〉 (講談社青い鳥文庫)天使のはしご〈4〉 (講談社青い鳥文庫)天使のはしご〈5〉 (講談社青い鳥文庫)

 

タイトルに「隠れた名作」とつけましたが、青い鳥文庫では人気、看板作品だったと思われます。2005年出版の人気作品を集めた短編集「おもしろい話が読みたい!青龍編」*1に番外編が収録されています。

 

ただ、現在は絶版で書店には並んでいません。不朽の名作だと思うのですが、内容が重いからでしょうか…? 復刊or電子になってほしいです。

個人的に、名木田恵子『天使のはしご』と倉橋燿子『青い天使』はシリアス系少女小説の二大名作だと思うのです。W天使です。

内容は「天使」なんて優しいものではなくて、困難が立ちはだかる壮大なストーリーです。エンタメ系の青い鳥文庫もいいけど、こういう方向性の作品があるのも青い鳥文庫の魅力でした。そして現代の子供さんの手にも取られてほしいなあと感じます。

ストーリ―

1巻から衝撃ですね。自分の両親が加害者と被害者の両方になってしまった小学生の紅絹(もみ)が主人公

紅絹の両親は仲が良く、姉の生絹(すずし)と4人幸せな毎日を送っていた。しかしある日、そんな家族を悲劇が襲う。母の不倫を疑い、激昂した父親が椅子を振り下ろした…。母はその椅子が頭に直撃し、帰らぬ人に。父親は逮捕。その現場を目撃してしまった紅絹はそのショックで声を失ってしまう。

紅絹は父方の祖母の家に、生絹は母方の祖父母の家に引き取られて離れ離れになる二人。姉妹の運命はそれぞれの方向に動き出します。

 

このストーリー、1巻からかなりショックを受けました。家庭円満な家の子でも「うちがこうなったらどうしよう」と感じると思うのですが、家庭不和の家の子には本格的にきつい。なのに続きが気になり引き込まれる。初読で惹かれ、続刊も借りて読みました。それ以来ずっと心に残る作品です。

しょっぱなから衝撃的ですが、声が出ない紅絹を救ってくれたキックボクシングに打ち込む好青年・想志の身にも悲劇が起こります。悲劇に深いかかわりを持つ青年・竜人と反発しあいながらも断ち切ることのできない関係になっていきます。

どん底から、紅絹が様々なことを経験して自己を見つめて悲しみや絶望を乗り越えていく物語です。

シリアスな中にも、ほっこりする場面や温かみがあり、ひとつひとつのエピソードが丁寧に積み上げられている作品だと思います。成長物語だけど、教訓や道徳めいた展開に傾かないところが良いですね。

魅力

いい意味で強すぎない人物描写

登場人物が「キャラ」ではなく、生身の人間らしいところが、この作品の独特の空気や割り切れない人間同士の関係を際立てています。

この話に登場する男女は「恋愛」というよりも「愛」という言葉がしっくりきます。それは穏やかで陽だまりのような関係、相手を思うゆえに適度な距離を保ち続ける関係、深い愛ゆえに激しさを伴う関係、時に愛憎まで…。登場人物それぞれに、名前の付けにくい「愛」が成り立っています。

男女に限らず、お互いただ一人の肉親である紅絹&生絹が運命に翻弄され、すれ違いながらも歩み寄っていく姉妹愛もキーポイントです。

小学生の頃は深く意識していませんでしたが、こういう物語に出逢えていたのは恵まれたことだと思います。

ヒロイン 紅絹

声を失うという設定や序盤の展開から、生真面目でおとなしそうな印象を受けますが、紅絹は意外に気が強いところがありますね。両親が健在な頃は利発な子だったというような描写があります。

張り詰めた繊細さと芯の通った強さ、年相応の無邪気さが同居する紅絹は不思議と印象に残る主人公です。

紅絹」や「生絹」という珍しい姉妹の名は、亡くなった母が草木染をしていたことが由来になっています。草木染は悲劇の原因となった母の不倫疑惑にも大きく関わっているキーワードです。

全てを語りすぎない

人の死が絡む物語だからこそ、謎は謎のまま読者の想像に任せる部分があります。主人公・紅絹は両親の死の真相に迫る役割を持ちながらも、すべてが語られるわけではありません。そういった要素が心地よい余韻や後を引く印象を作っているのだと思います。

凛とした美しさのある挿絵(武田綾子さん)

優しいタッチで描かれていますが、なんとも言えない強さが感じられる絵です。目に力があって躍動感もありますね。年配の大人の人物などはしわなども書き込まれていて、昨今の児童書挿絵とは一線を画す雰囲気があります。

作者・名木田恵子さん

私は『天使のはしご』のほかには、『星のかけら』(同じく青い鳥文庫)しか読んだことがないのですが、どちらも小学生にとっては未知の世界を垣間見れる作品でした。さりげないけれど、鮮烈に印象に残る表現があったと記憶しています。時代を先取りした社会問題も織り交ぜた作風で、今読んでも古くはないと思います。

天使のはしご

別名「ヤコブのはしご」。聖書由来の言葉だそうです。曇りがちな日の空の雲の隙間から太陽の光明が差す様を「天使のはしご」といいます。普通の街中でも天候の条件さえ整えば、綺麗な天使のはしごを見ることができます。垂れこめた薄暗い雲から一筋だけ光が差すような天使のはしごを見ると、少し嬉しくなります。小学生のころに、この作品を読んで以来、ふとした瞬間に何気なく探してしまいますね。

作品中も重要なシーンで「天使のはしご」が効果的な役割を果たしています。

最後に

私のつたないブログでは魅力を伝えきれないのですが、子供、親子、大人…etc.と、読み手それぞれの感想が浮かぶ作品だと思います。図書館等で見かけたら是非読んでみてほしいシリーズです。全5巻なので、ボリューム面ではとっつきやすいですね!

2020年になりました。このブログを初めてから早くも2度目の新年を迎えました。更新数は多くないですが、かたつむりペースで続けていけたらと思います。

*1:2005年刊行の青い鳥文庫25周年企画である短編集。青龍編(東の作家)、白虎編(西の作家)の2本立て。青い鳥文庫の人気シリーズが2冊に詰まっている。バラエティに富んだ贅沢な短編集。超おすすめ。

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