映画『若おかみは小学生!』ネタバレなし感想(最高!)
高評価が多い劇場版『若おかみは小学生!』。自分は小学生のころから親しんだ原作至上主義なうえ、前評判でハードルはかなり上がっています。でも期待外れな点はありませんでした。好きな原作とは全く違うけど完成度が高かったです。
最初からまっさらな気持ちで見れ、後半は「そう来たか!」と本気で驚きました。下記に付したあらすじとも異なる印象の余韻があるはずです。
レビュー等を見ると意外にも原作を全く知らない人が高評価をしています。映画の登場人物も原作では20巻にわたって大活躍するので、映画だけの方はぜひ原作を読んでいただきたいし、かつての原作ファンは劇場に足を運んでほしいと強く感じる作品でした。
素晴らしい出来なのに、平日だからか空いていました。上映も来週ごろで終わる館が多いようです。勿体ない…!一日一回上映、しかも朝の館がほとんどで、対象の子供、昔の読者の高校生・大学生・社会人には厳しいような…。空きコマがある大学の上級生くらいしか行けなさそうです。謎の上映スケジュールです。
※2020年5月16日(土)に地上波初放送されました。トレンドに上ってかなり反響があったみたいですね。この記事を書いたときは映画館で1回見た余韻の後、原作20巻をよくまとめたなあという感動にまかせて書いていました(だからやたらと「最高」と使っている…)。原作のおっこのイメージが強すぎるのと、自分自身が「労働は善」みたいな考えなので、映画のおっこが「働かされている」という状況には感じられなかったです。ただ、落ち着いて映画として見ると賛否両論の「否」が起きるのも分かると感じました。2020年5月追記。
劇場版 あらすじ
累計発行部数300万部を誇る人気児童文学シリーズ「若おかみは小学生!」をアニメーション映画化。小学6年生の女の子おっこは交通事故で両親を亡くし、祖母の経営する旅館「春の屋」に引き取られる。旅館に古くから住み着いているユーレイ少年のウリ坊や、転校先の同級生でライバル旅館の跡取り娘・真月らと知り合ったおっこは、ひょんなことから春の屋の若おかみの修行を始めることに。失敗の連続に落ち込むおっこだったが、不思議な仲間たちに支えられながら、次々とやって来る個性的なお客様をもてなそうと奮闘するうちに、少しずつ成長していく。人気子役の小林星蘭が主人公おっこの声を担当。「もののけ姫」「千と千尋の神隠し」などスタジオジブリ作品で作画監督を務めてきた高坂希太郎が、「茄子 アンダルシアの夏」以来15年ぶりに長編劇場アニメの監督を手がけた。脚本は「映画 聲の形」「夜明け告げるルーのうた」などヒット作を数多く担当する吉田玲子(映画.com https://eiga.com/movie/88985/より引用)
この記事では感想と印象に残った点をネタバレなしで書いていきます。とはいっても「映画を全くの予備知識なしで見たい!」という方にはお勧めできない記事です。児童書ブログなので原作寄りの観点からです。映画の完成度が高く満足したといっても、私はやはり原作派です。
原作について
出版社:講談社
レーベル:青い鳥文庫
作者:令丈ヒロ子
挿絵:亜沙美
巻数:20巻 ※他にも外伝多数あり。
出版期間:2003年~2013年(本編20巻) ※2018年映像化だが、原作は結構前。
小学6年生のおっこが温泉旅館の後継ぎとして若おかみ修行を頑張るストーリー。仕事の心構えや将来、恋模様などを描く。
ストーリー後半には「魔界」が舞台になることもある。タイトルと序盤からは想像できないエピソードも繰り広げられる。人物との交流、危機の乗り越え方に勇気をもらえる。それでいてコメディー、シリアスのバランスが良い。「旅館お仕事もの」として秀逸。
親や先生に勧められて読む本、というよりは小学生が自発的に手に取っていた印象。当時は可愛らしい挿絵に拒否反応を示す大人が多かった気がしますが、子供にも大人にもおすすめできる作品。
私は原作ファン歴12年(完読してませんが)、15巻までは手元に置いて何度も読み返しています。16巻以降未読、20巻ラストの展開は知っていました。魔界編に入った時点で読むのをやめたのですが、映画を見て最終巻まで読了しなければ…という気持ちになりました。テレビアニメは未視聴です。
↓原作表紙はこんな感じ
映画のここが良かった!
原作と異なるアプローチ
青い鳥文庫で20巻にもわたる本編では両親の死よりも、おっこの若女将修行と個性豊かなお客さんとの交流(時にはトラブル)やユーレイ・魔物との友情が中心。おっこは「失敗しながらもパワフルに突き進む強い子」というイメージでした。原作での「両親の死」はクライマックスになってから本格的に触れられています。実際、小学生のころに読んでいたときは「面白くてパワフルなシリーズだけど、時折おっこの境遇が辛いことに気づく」くらいの感覚でとどまっていました。
映画化にあたって両親の死がピックアップされると聞き、ひねくれている私は「単なるお涙頂戴物になったらいやだなあ」と少し心配していたのです。杞憂でした。表情や演出で魅せつつも、あくまで自然に、心に染み入る爽やかさがありました。原作では母親の形見として「紅水晶のペンダント」が登場し、随所で効果的な役割を果たします。映画では一切出してこないのが面白いと感じました。
カット多し!それでも満足。
原作では20巻で小学6年生の一年間、映画内の季節は春から冬に移り変わっています。20巻分を90分にまとめるので、カットが多いです。例えば主要キャラの美陽ちゃんは原作2巻ラスト、鈴鬼くんは5巻以降から登場です。グローリーさんは6巻。それでも終盤のストーリーは原作の20巻の要素。当然、原作の登場人物やエピソードの一部分しか映画になっていません。改変もあります。
「あのシーンは見たかった」という気持ちより、綺麗な纏められ方への感動の方が上回りました!特に映画オリジナルエピソードと原作素材がうまく融合していて「ここでこれを使うのか」という新鮮さが感じられました。終盤のオリジナル展開への伏線が原作にも登場するもので張られていたことに後から気づきました…。
過去にも思い入れある児童小説が映像化しましたが、落胆することが多かったのです。「私の心が狭いだけ…?」と思っていたのですが、しっかり練りこまれた作品であれば多少の改変は気にならないのですね。初めて映像化の成功例を見た気がします。
原作ファンへの細かいサービス
大阪時代のウリ坊と峰子ちゃん(おっこの祖母)の一コマ
ここは原作でも切なくて好きなのですが、動きと声がつくと一層良い!峰子ちゃんが関西弁で可愛らしいです。アルバムのふんどしウリ坊に少し笑ってしまいましたが(笑)。このシーンで既に涙腺が…。
中盤ショッピングシーンに、青い鳥文庫ロゴの紙袋登場
グローリーさんがおっこに購入していた服は、原作でも見覚えのあるものでした。真月さんのお神楽練習用ジャージも13巻で登場していました。青い鳥のロゴは一瞬だけですが、見慣れた人には分かるのでこだわりを感じました。
カットした部分をセリフや演出で補完
全編にわたって、工夫がちりばめられていました。地の文で書いてあったことをセリフで示す、カットしたエピソードは代わりのモチーフを追加(美陽ちゃんの絵etc)。
キャラクターデザインが原作準拠
テレビアニメ版おっこは少し子供っぽく感じるので、映画版の方が好き。映画版も原作に比べると少し子供感がある。
映画から原作へのおすすめポイント(原作での掘り下げ)
映画、私は原作のシーンを反芻しながら見ていましたし、思い出補正もあります。全く予備知識なしで見ると「もう少し人物の掘り下げが見たい」と思うかもしれません。おっこがいい子過ぎて、意思が無さそうに映るかもしれないし、ユーレイとの別れも唐突に感じるかも。そこで映画→原作のおススメポイントをご紹介します。
おっこはキャラが結構違い、登場人物やエピソードも異なるので新鮮な楽しみを味わえると思います。原作と映画ではストーリーのベクトルが違って、原作は涙がでる感動というよりも、生きるうえで糧になりそうなことを教えてくれるバイブルです。
おっこ失敗の連続、大変なお客さん
映画は善良なお客さんばかりでしたが、原作はかなり厄介な人が来ます。ホテルからの偵察者、頑固老人、謎の霊感師、お騒がせ子役、温泉あらしetc…。
真摯に対応しようとするけれど、クレーム騒ぎに発展することも。おっこはかなり失敗するし、一本気。しかも気が強いから言い返して、さらに騒動が大きくなる。
1巻は読んでいて辛いけれど、子供心に「働く」ということの厳しさが印象に残りました。もちろん人に喜んでもらえることの嬉しさも。こういう部分は自分が大人になっても、すごく影響が残っています。
映画に登場しない人物だと、後におっこの彼氏になるウリケン*1も外せません。第一印象は悪いけれど、ウリケンは懐が広くていいやつです。おっことウリケンの距離感もかなり丁寧に描かれていると感じます。
美陽ちゃんと秋好旅館
秋好旅館にいても美陽ちゃんは家族に気づいてもらえません。そんな寂しさから春の屋旅館に居つくことになったのです。私は5巻ラストの美陽ちゃんと源蔵さん(真月・美陽の祖父、映画未登場)のシーンが大好きです。基本コメディー調のなかに、時折しみじみとした感動シーンがあるのが原作です。
花の湯温泉プリン誕生までの過程
原作1巻はプリン誕生がハイライト。映画ではあかねさんとすぐに打ち解けましたが、原作ではもうひと悶着&ひと騒動があります。原作おっこは更に負けん気が強い印象。おまけに猪突猛進。その過程でおっこは自発的に若女将になる決意を固め、その結晶が花の湯温泉プリンといえます。自分で試行錯誤を重ねる姿は必見。
ウリ坊・美陽ちゃん・鈴鬼くん 人外3人組との絆と別離
原作はおっこが人外3人組と関係を築いていく過程が丁寧。初登場時の美陽ちゃんなんて小憎らしい感じでツンツンしてます(笑)。原作でもクライマックスで別離が描かれるのですが、積み重ねているエピソードが多い分感傷もひとしおです。前に20巻のラストだけ軽く書店で見たら、ぐっときてしまいました。シリーズの後半では鈴鬼くん絡みで魔界に行ったりもします。映画版では「すずき」のイントネーションと頭身の高さに少し驚きました。
おばあちゃん(峰子)とおっこ
原作では仕事終わりに住居である離れで話すシーンが多く、おばあちゃんがおっこに作ってくれる料理もかなり美味しそうで魅力的です。作ってみたくなります。13巻ではおっことおばあちゃんが思いっきりぶつかり合う一コマも。全巻通して、映画とはまた違った温度・距離感の関係が楽しめます。仕事中は映画より厳格ですが、お茶目な印象もある峰子さんです。
原作者あとがき
ページ数は少ないですが、温泉宿での経験をもとに、クスッと笑えて妙に記憶に残るあとがきが面白いです。温泉宿以外のエピソードもあります。関西の人らしい軽妙な文章が癖になります。
若おかみは小学生! 花の湯温泉ストーリー(1) (講談社青い鳥文庫)
- 作者: 令丈ヒロ子,亜沙美
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2003/04/15
- メディア: 文庫
- 購入: 2人 クリック: 33回
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総じて
原作の良さは書ききれないくらい沢山あります。映画オリジナル部分も老若男女に楽しんでほしいと感じました。個人的な意見ですが、良質な児童書やアニメに対する「大人の鑑賞に堪えうる」というニュアンスの賛辞に違和感を覚えてしまいます。わざわざ大人の評価に上げなくとも、良い子供むけコンテンツは沢山のことを教えてくれると思うのです。だから「子供が楽しめるものが面白くないわけがない!」というスタンスで見てくれる人がいればいいですね。
ストーリー部分での感動もさることながら、エンドロールで「令丈ヒロ子、亜沙美絵 講談社青い鳥文庫」の文字を見て感無量でした。慣れ親しんだタイトルをスクリーンで見て、映画化したことを実感しました。朝から映画館に出掛けて良かったです!
読んでいただいてありがとうございました。
*1:ユーレイのウリ坊と血縁関係があり、外見もそっくりな人間の少年