六等星の瞬き

ひっそりと本(児童書)について書きます。たまに雑記も。

【紹介】名探偵夢水清志郎事件ノート(小学生から読める本格ミステリ!)

はやみねかおる作、村田四郎絵。講談社青い鳥文庫刊。

主人公・夢水清志郎(通称・教授)は名探偵です。探偵ではなく名探偵。このシリーズにおいて名探偵と探偵の違いは大きいです。本物の名探偵は事件を幸せに解決できる人。謎や闇を暴ききって解決!なんて無粋なことはしません。

 

この書き方だと夢水清志郎なる人物に対する期待が高まるのではないですか?

でも優しくて良識があって…という感じではありません。残念ながら。それでも教授は魅力的なんですよね。取り巻く人物、話を構築している謎・トリック・推理にも惹かれるものがあります。小学生から大人までが楽しめるミステリです。

このシリーズは一定の年齢層では知名度が高いと思います。シリーズ開始は1994年ですから、初期の読者だったら現在30代くらいでしょうか。1999年にはNHKドラマ「双子探偵」として放映されていたようです。

第一部「名探偵夢水清志郎事件ノート」(1994~2009)と第二部「名探偵夢水清志郎の事件簿」(2011~)があります。私は第二部はノータッチなので、第一部についての記事になります。

そして五人がいなくなる (講談社青い鳥文庫(SLシリーズ))  オリエント急行とパンドラの匣 名探偵夢水清志郎&怪盗クイーンの華麗なる大冒険 (講談社青い鳥文庫)

第一部 作品一覧

1 そして五人がいなくなる(教授との出会い)
2 亡霊(ゴースト)は夜歩く(虹北学園の学園祭)
3 消える総生島(島で映画撮影クルーと!)
4 魔女の隠れ里(桜の美しい里で起こった切ない事件)
5 踊る夜光怪人(町に奇妙な夜光怪人が現れて…?)
6 機巧館のかぞえ唄
7 人形は笑わない
8 『ミステリーの館』へ、ようこそ
9 あやかし修学旅行 鵺のなく夜
10 笛吹き男とサクセス塾の秘密(受験勉強)
11 ハワイ幽霊城の謎
12 卒業 〜開かずの教室を開けるとき〜

ギャマン壺の謎徳利長屋の怪(江戸時代外伝2冊)
いつも心に好奇心!(怪盗クイーン初登場)
オリエント急行パンドラの匣(クイーンとの対決、村田四郎さんとK2商会さんも豪華コラボ)

登場人物

岩崎亜衣

語り手としての主人公。開始時は中学1年生。最終巻では中学卒業。本が好きで将来の夢は推理小説作家。文芸部所属。しっかり者で建設的。真衣・美衣という三つ子の妹がいる。亜衣・真衣・美衣の岩崎3姉妹は「三面鏡に映したようにそっくり」で、母も間違うほど。

岩崎真衣

次女。運動神経がよく、陸上部に所属している。おおらかな性格。亜衣曰くがさつな一面がある。

岩崎美衣

末っ子。おっとりしている。占い同好会所属。新聞フリークで海外の新聞まで読み、スクラップする。英語やフランス語の聞き取りができ、「いつも心に好奇心!」の怪盗クイーン&ジョーカー初登場シーンでは2人の会話を訳していた。

夢水清志郎(教授)

元大学の論理学教授。三つ子の隣の古びた洋館に引っ越してきた(第一巻)。

自分の年齢・生年月日や過去解決した事件を覚えていない。記憶力・常識ゼロの食欲魔人で自信家。常識はないが妙なことに詳しい。いつも同じ黒背広を着ていて針金細工のような長身・痩身。黒サングラスは外さないが、外すと「草刈正雄を栄養失調にしたような」顔らしい(書籍化されていないウェブ限定短編「神隠島」参照)。

本に埋もれた部屋で生活している。亜衣曰く「社会生活不適応者」。食べ物をたかったり、体中にカビを生やしたりとそのエピソードは枚挙にいとまがない。

とんでもない性格だが名探偵としては一流。お気楽に見えてそこはかとなく怖さと哀愁があるのが教授の魅力。

中井麗一(レーチ)

知性が零でレーチ。亜衣の彼氏で文学部所属だが「存在自体が詩人」と自称し、一篇も書かない。校則無視の長髪をゴムで括っている。魅力的問題児(公式の紹介より)。学業の成績はイマイチだが、明晰な一面がある。

夢水を尊敬していて「名探偵第一助手」を名乗る。幕間に「レーチの文学的苦悩」という章がたびたび出てくるのですが、すっごくいい味を出しています。ナイスキャラ!

伊藤真理

雑誌「セ・シーマ」の編集者。「72時間働けますか?」がモットーな快活な女性。愛車をスピード運転するのが趣味。4巻「魔女の隠れ里」で初登場。以降「夢水清志郎の謎解き紀行」の連載が始まり、作中事件に取材絡みで関わることが増えていく。4巻はキーパーソンとして事件の核心に関わっている。シリーズ中でも屈指の名作。

他にも魅力的な人物がたくさん出てきます。上越警部岩清水刑事…。三つ子が通う虹北学園の名物部活・同好会や組織にも個性豊かな人が沢山です!

ココが魅力!

構成や章立てが独特

児童向けだと思えないくらい時間軸を攪乱させる巻や謎解き部分に袋とじ(!)をつけたりと色々革新的です。章タイトルはロマンを感じるような言葉選び。「読者への挑戦状」や亜衣ちゃんの一人称自己紹介で、子供の長編ミステリへの負担感を軽減しているんだろうなあ。大人でも先が読みたい、また読みたいと思うことでしょう。長い物語の時は巻末に作者からの「読了証」が付されていて、思わずほっこりしてしまいます。

舞台・話が様々

学園や町、島での映画撮影、ミステリー作家の館、ハワイ、塾、修学旅行、山里、江戸時代とあらゆるシチュエーションを網羅しています。雰囲気・登場人物ががらりと変わるので自分のお気に入りの巻がきっと見つかりますよ!

印象に残るディティー

事件の本筋に絡まない部分も凝っています。大昔(10年以上)に一回読んだだけという巻もあるのですが、今でもはっきりと残っているエピソードも多いです。あとはやみね先生は地の文の表現が面白いです。装飾は多くなく、児童書の中でもシンプルな文章ですが、言葉選びにインパクトがあります。本来の読者層には分からないであろうパロディもまた一興。

青い鳥文庫本編以外の媒体を活用する

通常の青い鳥文庫本編以外にもweb限定公開の小説があります。「魔女の隠れ里」はおよそ青い鳥文庫には載せられない真のラストがあって、ネット限定公開という攻めっぷり!当時は小学生が気軽にネットを使える環境ではなかったので希少性がありました。青い鳥文庫は児童書としての品を保ちつつも攻めた一面があるので大好きです。

教授が過去に解決した「神隠島」事件もネット限定。横溝ミステリ感漂う連続殺人事件。神隠島の教授は「イケナイ大人」の雰囲気が満載で新鮮です。かつての夢水ファンの方、是非一読を!

「おもしろい話が読みたい!白虎編」では論理学教授時代の夢水が描かれます。休講三昧、研究室に日本酒の瓶があったりと、一昔前の大学という感じです。小学校時代は純粋に「大学ってこんな感じなんだ」と思っていました。実際は全然違いましたが(笑)。

色々な作品世界と地続き

はやみね作品一般にいえることです。他のシリーズとコラボしたり、同一人物が登場します。同じく青い鳥文庫の人気シリーズ「怪盗クイーン」は夢水の外伝から生まれています。初登場時は村田先生がクイーン&ジョーカーを描いています。

人が死なないミステリだが質の良い恐怖がある

作中時間軸では殺人事件は起きません。日常の謎を解決することも多いですが、関わる事件によっては過去の悲しい出来事が内在していたり、人の業が垣間見えたりします。事件の動機や顛末には重層的な広がりがあるので、大人になってから読むと感じ方が変わるでしょう。

教授は「事件を幸せに解決する」が信条、3姉妹は青春真っただ中で基本的には楽しい雰囲気です。でもそこはかとなく妖気が漂っているというか…

日常のすぐそこに非日常の扉があるような感覚にさせられることがあります。うまく言葉にできないのですが、人間の本能にぞくりと訴えかける恐怖であると思います。

最後に

色々と書いてきましたが、夢水シリーズは個人的に魅力ポイントを明確に言語化できない部分があるのです。全体を覆う雰囲気と大胆なトリック、独特の謎解きをすべて包括して好きだからでしょうか。

小学校5年生くらいで出逢ってから、貪るように読みました。程なく最終巻がでて「卒業」は初版で買いましたが、それ以外の巻は図書館で読んでいたのであまり読み返せていないのです。大人になった今の感覚でもう一度読み返したら、昔とは違う感動があるのだろうと思います。


コンパクトな講談社文庫(一般向け)が出ているのでそちらを読めばよいものを、村田先生の挿絵を楽しみたいので青い鳥文庫版にこだわってしまいます。

村田先生の挿絵は教授のつかみどころの無さが唯一無二です。絵コンテの雰囲気のほのぼの系かと思いきや、怖さやおどろおどろしさを醸し出す絵もあって魅力的です。色んな媒体でいろいろな方が教授を描いているけれど、やっぱり村田先生絵が一番好き。でも最終巻の2年後にお亡くなりになったようですね。リアルタイムで知るのも悲しいけれど、後から知る訃報は格別の寂しさがあります。

先日書店で青い鳥文庫のパネルを見つけたのですが、故・村田先生の教授、故・藤田先生のチョコとギュービッド(黒魔女さんが通る‼)、9巻表紙のおっことウリケン(若おかみは小学生!)、ムーミン、パスワード電子探偵団、星の王子さまが描かれていました。このキャラクター選択、年季の入り方からして明らかに10年前のパネルっぽいです。抗えない時の流れを感じてしまいましたね…。


1巻は実に20年以上前。亜衣ちゃんがワープロを使っていることに時代を感じます。でも話自体は古くありませんし、対象層の読者さんにとっては自分が知らない世界をその当時の視点で垣間見るという新たな楽しみ方ができると思います。

本シリーズは基本的にサクサク読めます。大人の方は失った何かを思い出させてくれる1冊になるかもしれません。

ちなみにはやみねかおる先生は「勇嶺薫」名義で大人向け小説を書いているのですが、そちらはテイストが全く違います。気になる方はそちらもどうぞ…。

 

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