六等星の瞬き

ひっそりと本(児童書)について書きます。たまに雑記も。

【紹介】まんが世界ふしぎ物語(古代遺跡のロマンを感じる学習漫画)

たかしよいち原作吉川豊漫画理論社全10巻。数ある子供向け学習漫画の中でも、古代文明&古代遺跡に特化した作品。古代文明や考古学、発掘秘話を叙情的に描きます。この作品はメイン登場人物と設定がユニークなのも魅力ポイント。

 概要

取り扱う題材は様々です。定番の古代エジプト文明、インカ、マヤ、トロイ。それから日本の中尊寺金色堂に残る入定(にゅうじょう)ミイラまで!
考古学×古代文明×歴史×伝記という雰囲気。題材によってどこに重点を置くのかが異なるのですが、全巻通して定番なのは個性的な3人の登場人物です。

とある古美術商店の地下にあるドア。世界各地の古代遺跡に通じています。イメージとしては、どこでもドアやハウルの動く城に出てくるドアみたいな感じ。開けた先には古代ロマンが沢山!このファンタジー設定が最高のスパイスです。

登場人物

なぞの少年王ツタンカーメン (まんが世界ふしぎ物語)

↑ 人物が分かりやすい表紙(右からキャット、マミー、カオリ)

下記の名前下の文章は、上段が本に記載されている紹介文、下段が主観込み。

キャット馬場

表向きは古美術商店「木乃伊(ミイラ)堂」の主人。だが裏では世界中の古代遺物を盗みまくっている大泥棒。

キャット馬場=ネコババネコババと呼ばれると怒る。メイン人物が泥棒とは(笑)。悪人面だがなんだかんだでいい人。いつもカオリちゃんとマミー君に押し切られている。商店の主人のときはいたって普通の格好、古代遺跡に行くときはタキシードに蝶ネクタイにシルクハットで現れる。

カオリ

木乃伊堂」に入り浸っている古代ロマン大好き少女

キャット馬場に古代遺跡に連れて行ってもらうことを楽しみにしている。快活でサバサバしている印象。マミー君とはいいコンビ。

マミー

キャット馬場に盗み出された古代エジプトの子供のミイラ

ずんぐりむっくりな子供体型がカワイイ。三白眼なのもイイ。ミイラの亜麻布姿。睡眠は棺の中で。お調子者で面白いが、若くして死んでいるうえに、エジプトの両親の墓もすでに盗掘されているという悲しさがある。かつてミイラ本体は薬として重用されたようですね…。

魅力

考古学に触れる

このシリーズで初めて古代遺跡や考古学に触れる子供も多いのでは? 学問としての考古学は地道な発掘や科学的な手法での分析があってこそ成立するのですが、この作品は入り口として申し分なく面白いです。遠い国・地域の古代文明、子供にも大人にもあまり馴染みがないかもしれませんが、新たな知的好奇心を刺激されますよ!

ストーリーが良い!

単に事実を追うだけではなく、心に訴えかける物語が展開します。これが単なる歴史学習漫画ではないところ。タイトルにも「ふしぎ物語」とありますしね。
人情や切なる想い、悲哀を織り込んでいます。小学校中学年でも楽しく読める100ページ程度の本なのでエピソードを深掘りする余裕はありません。そして発掘秘話などは多少の脚色があると思いますが、情報・知識の充実と心動く展開が両立されています。

イチオシはシュリーマンの発掘秘話(5巻、6巻)。

苦学しながら独学で5か国語をマスターし、神話に過ぎないと思われていたトロイを発見しました。母が死去、父親が牧師の職を失い学資が絶たれる、14歳で就職、働きづめで胸を患う、南米航路で難破、独学で4か国語を勉強、貿易会社に就職、ロシアのペテルブルクで商人として成功…。シュリーマンが24歳の時までで体験した出来事です。普通の人の一生分くらい濃いですね。自分のちっぽけさを思い知らされます。

ツタンカーメン王墓発掘の考古学者カーター&カーナボン卿(3巻、4巻)も劇的。カーナボン卿はカーターのパトロン。長年の苦心の末に大発見をした2人なのですが、確執が生じます。カーナボン卿は変死、いわゆる「ファラオの呪い」という流言の発端となりました。華々しい発見の裏には影も含まれているんです。

シュリーマンとカーターに関しては後年の評価が分かれるところですね。好事家的な見られ方や遺跡の扱いに対する批判などがあります。それでも純粋な好奇心とそれに基づいた努力や実行力は凡人の器ではないなあと思います。

インカ帝国(8巻)の回では、スペイン人の侵略の様子が描かれます。割とヘビーな内容ですが、マチュピチュの発見者と現地の少年との心温まるエピソードを通してインカの奥に眠っているかもしれない黄金、在りし日の人々の営みに想いを馳せられます。

絵のインパク

冒頭や中盤に挟まれるキャット馬場、カオリちゃん、マミー君の掛け合いは思いっきりコミカルな絵でキャッチーに。歴史や古代文明の部分では写実的で少し劇画っぽさも。映画を見ているような気分になれます。

古代の人々の服装や顔つきにもこだわっていると思います。時折、見開き2頁を使った俯瞰の風景が入るのですが、これが細密画のような書き込みと大スケールで壮観です!例えばトロイ戦争のシーンやマチュピチュ全景など。

作者と漫画家のコーナー

本編漫画部分の後、吉川先生のギャグ調短編漫画があり、登場人物にたかし先生と吉川先生を据えて、思いっきり笑えるショートストーリーを展開します。最後にたかし先生の解説。本編を掘り下げる話や実際に遺跡に行った紀行文が文章で書かれています。この構成も本作品の魅力ですね。

大人でも楽しい。

最近、十何年ぶりに読んでみたのですが、想像以上にしっかりした内容魅力的な漫画でした。児童のころは物語として読むことが多く、地理的な部分や時代背景をあまり理解してなかったのですね。子供の読みやすさを損なうことなく、知識がさりげなく散りばめられています。今の方がきちんと理解できますし、描かれている人物への見方が深まっている気がします。

そして昔は面白キャラだと思っていたキャット馬場。改めて読むとすごく格好良いですね。しっかりした大人でナイスガイですよ…。カオリちゃんもマミー君も可愛くて、癒されますね。ナイスキャラの3人。「泥棒と盗まれたミイラ」という設定が思い浮かぶのが凄いです。

最後に

自分が初めてシリーズとしてハマった作品。このブログで書いてきた、どの作品との出逢いよりも幼いころに図書館で夢中になって読みましたねえ…。そこから派生して古代文明関係の本を読み漁り、やたらとミイラに詳しい子供でした…(笑)。今でも博物館は大好きですし、考古学やら発掘やらのワードに胸がときめきます。思い入れと影響が強すぎます。

30年近く前に初版発行されたシリーズなので、あまり書店には並んでいませんね。図書館でも損傷が激しくなると処分されているかもしれません。

90年代らしいノリと「20世紀の現代」という言葉に時代を感じます。今の研究結果から見ると古い部分もあるでしょう。でも子供さんにおすすめできる良いシリーズです。大人も古代ロマンに浸れると思いますよ。買いたいけど単行本全14巻はなかなかきついです。電子書籍になれば便利なのになあ…。

2008年に新・世界ふしぎ物語が全4巻で発売されているようです。登場人物は変更なしですが、カオリちゃんが考古学を専攻する大学院生にして主婦だそうです。カオリちゃんの娘が登場するとか。新を合わせるとと全14巻ですね。

作者のたかしよいち先生は2018年の1月に亡くなっているようです。本の中にも作者として登場、先生自身の解説があったので、読者は勝手に親近感を持っていたと思いますよ。想い出の中に強く残る本の作者さんが亡くなるのは悲しいですね。特に児童書の場合は読者より作者の方が先に…というのが、自然な流れなので、なんとも言えない気分になります。

たかし先生はこの作品以外にも多数、知的好奇心が高まる本を出しています。どれも面白くてためになる、子供さんにおすすめですよ!

お読みいただきありがとうございました。

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