六等星の瞬き

ひっそりと本(児童書)について書きます。たまに雑記も。

【紹介】『黒魔女さんと死霊の宮殿』6年生編13巻【感想】※ネタバレ

主人公・チョコの12歳の誕生日。消えてしまった大形の記憶を取り戻し、救うために「死者の世界」を冒険する。

石崎洋司作、亜沙美絵、藤田香キャラクター原案。講談社青い鳥文庫。2021年2月新刊。『黒魔女さんが通る!!』シリーズ6年生編の13巻。

黒魔女さんと死霊の宮殿 6年1組 黒魔女さんが通る!!(13) (講談社青い鳥文庫)

ネタバレあり。なんの前置きもなくキャラクター名を出しているので、過去シリーズを読んだことがある人向け。

 

 あらすじ

第一話 黒魔女さん、キャラ変はお好き?

第二話 黒魔女さんと死霊の宮殿

お馴染みのクラス委員長・舞ちゃんの提案で世界遺産の勉強ができるテーマパークに行くことになった6年1組。5年生の時から全然進歩がないことを理由に、「クラスみんなで世界遺産を学んで卒業までに進化する」という名目の下、クラス遠足に向かう一行。

一方で記憶のもどらない大形を救うためには、チョコと大形の新たな思い出を作り、過去の想い出も取り戻したいと思わせることが重要。そのために2人で「死者の世界」を旅する必要があるという。「死者の世界」は魔界とも違う、独立した世界。同行者はチョコの師匠・ギュービッド、大形の元師匠・暗御留燃阿、現師匠・桃花。暗御留燃阿は大形に強制的に修行をさせ、恐怖の魔法使いに仕立てあげた原因の人。

旅の出発はクラス遠足の終了後と予定されていたが、遠足の行き先のテーマパークが既に「死者の世界」の入り口になっていた。しかもその影響でチョコの周りの人たちが偽物にすり替わっていて、「キャラ変」したかのような混乱が起きていた。

そんなこんなで「死者の世界」に入ったチョコたちは大形の記憶を取り戻すのための手掛かりを追い、人の記憶を売買する「記憶屋」を名乗る兄妹のもとへたどり着く。そこには失った大形の記憶もあるのか…?

 

以上のようなあらすじになっています。二話構成ですが、ほとんど地続きの話だったように思います

雑感

地味に活躍していた麻倉&東海寺

最近のテーマは大形の救済ですが、麻倉&東海寺の出番も多かった今巻。偽物のチョコの違和感に気づいて本物のチョコに協力しようとしたり、チョコの正体(黒魔女)に気づいているかのような仄めかしがあったりと熱い展開でした。

クラスの面々が進歩してないことを指摘する舞ちゃんに対して、麻倉&東海寺コンビがやり返すのが面白かったですね。こんなに鮮やかに言い返されている舞ちゃんのシーンはあまりなかったかもしれない。

ギスギスするギュービッド、暗御留燃阿、桃花

前巻で大形を救いに行った桃花が魔界から帰ってくると、冷たくて先輩にも上から目線で発言する別人格になっていた。上下関係の厳しい魔女学校。そのせいでギュービッド、暗御留燃阿と険悪な雰囲気になる。結局、その桃花は偽物でしたが、新鮮味がありました。

また、ギュービッドと暗御留燃阿がかつて親友だった事実を感じたこの巻。ギュービッドの言動に対し、暗御留燃阿の冷静かつ効果的なフォローが効いていました。一時は全然登場しなくなってましたが、物語の本筋に絡んできて嬉しいです。イラストでも2人のクールビューティ感が出ていて良いですね。

チョコのドッペルゲンガー

本人に容姿がそっくりだけれども、性格が違う人当たりが良く明るい「偽物のチョコ」の登場。偽物のチョコは幻などではなく、すでに亡くなっている実在していた女の子という設定がいいですね。ドッペルゲンガーという言葉が持つ、ミステリアスかつ不気味なイメージが引き立ちます。しかも自分の偽物が善良で周りの人から好かれやすそうな性格な点は、別種の恐怖も感じます。

またドッペルゲンガーの外見描写があるのですが、そこで初めてチョコの外見的特徴が明らかになるのですよ。作中「へちゃむくれ」といわれているだけで、15年間、一貫してチョコの一人称語りの中で外見描写がなかったのです。他のキャラの外見描写は多いのに、主人公は本当に謎でした。そもそも黒魔女さんで初めて「へちゃむくれ」という言葉を聞いた上、日常生活で使っている人を見たことがないので、余計に想像しにくかったですね。今回の描写は結構驚きでした。チョコって結構可愛いタイプ?

チョコと大形のコンビネーション

終始、ゼロ距離で心通じ合ってる感じ。チョコの大形に対するモノローグがなかなかのキラーフレーズ揃いでしたね。6年生編まで大形とチョコの関係性に着目することなく「え?大形くんて人気キャラなん?」レベルの認識だった私でも、シリーズラストに向かう上で大形は紛れもない重要人物なんだなと実感しました。

ただ今回の大形はチョコとの思い出を含め、すべての記憶を失っているのでありのままの2人という訳ではないのですが。

記憶屋

 記憶を売りさばく「記憶屋」。やばそうな匂いがします。一度欲目をだして美味しい思いをした人間は歯止めがかからないあたり、あるあるですね。それを心配する妹に対して「楽にくらせるようになったのは、誰のおかげだ!おまえはだまってろ!」の発言。こういう男の人、結構いますよね。

そんなことはさておき、黒魔女さんシリーズで「記憶」は結構重要なのではと思います。

初期から、大形は幼少期から眠らされたような状態で記憶が曖昧(5年生編4巻)だとか、チョコとギュービッドの修行の終わりは魔力も記憶も捨てて普通の女の子に戻ることと言及されていました。また同著者『世界の果ての魔女学校』(※黒魔女さんシリーズとは別物)の、記憶に焦点を当てた話が印象深かったです。

記憶や想い出は人の心を彩るものでもあるけれど、苦しめるものにもなります。そして忘れてしまって思い出せないのも気持ちが悪く、鮮明に覚えすぎているのも過去に捉われてしまう要因となりかねない不思議なもの。そういう感覚になる描写が多い気がします。

大形の祖父・大形京太郎

クライマックスで大形の記憶を取り戻すための封印を解く場面で、死の神を呼び出す呪文を唱えると大形の祖父である大形京太郎が現れました。元魔法使いで、既に鬼籍に入っている京太郎。孫を救うためにやってきたといいます。そして以下の2点を提案します。次巻でどんでん返しがある可能性もありますが、物語の展開上大きな変化と感じました。

  • チョコと大形を同じ魔力にする。それぞれ1級黒魔女、1級黒魔法使いになる。

これはチョコ&ギュービッド、大形&暗御留燃阿の師弟同士の切磋琢磨かつ競争が始まる布石ですかね。美味しい展開になってきました。ただ、5年生編12巻からと考えると桃花のインストラクターとしての見せ場は、長さの割に多くなかったように思います。

  • 暗御留燃阿を引き続き大形のインストラクターにする。

その理由は「あんな美人が孫の世話をしてくれると思うだけで心が弾む…」とな。庶民的なおじいちゃん、人が好さそうで俗っぽさもあるところが、大形の祖父としては意外性があって好きです。

 

今回、大形の祖父の出現で一気に状況が変わったわけですが、大形救済に関してあっさりした印象も受けます。大形京太郎に関しても謎めいた部分が残ります。最後に「『14巻 黒魔女さんと魔法博士』につづく」とありますので、このまま一件落着ではないでしょう。次巻でも一波乱あるかと思います。

作中の設定は6年生の12月末ですから、主人公の小学校卒業までの秒読みが始まった感があります。しかもこの13巻でチョコが一級黒魔女になると、黒魔女修行という点から見てもゴールは近いのかなと感じます。5年生編も3学期編が長かったので、今後すぐに完結することはないかもしれませんが、個人的には6年生編も20巻前後で区切りがつきそうと思っています。

お読みいただきありがとうございました。

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