六等星の瞬き

ひっそりと本(児童書)について書きます。たまに雑記も。

【次巻完結】『黒魔女さんの卒業試験』6年生編19巻【感想】※ネタバレ

主人公・チョコの通う小学校の「6年生を送る会」の真っ最中に黒魔女卒業試験が始まってしまう。与えられた課題は6年生全員の魂を抜き取って魔界へおくること。チョコは大事な師匠、友人を天秤にかけた決断に迫られる。

 

黒魔女さんの卒業試験 6年1組 黒魔女さんが通る!!(19) (講談社青い鳥文庫)

石崎洋司作、亜沙美絵、藤田香キャラクター原案。講談社青い鳥文庫。2023年3月発売。『黒魔女さんが通る!!』シリーズ6年生編の19巻。

ネタバレあり。なんの前置きもなくキャラクター名を出しているので、過去シリーズを読んだことがある人向け。

 

あらすじ

「6年生を送る会」の最中に突然チョコの黒魔女卒業試験が始まった。課題は「6年生全員の魂を抜き取り、魔界の死の国の王宮で行われるエクソノーム第二王子の立太子の礼の場に届けること」。エクソノーム王子はギュービッドの想い人であり、立太子の礼では婚約発表があるという。6年生を犠牲にするか、師匠との絆を裏切るか、師匠と想い人の婚約を破談にするか、難しい判断を迫られるチョコ。思い悩むチョコに大形は「全員がハッピーになれる方法なんてない」と諭す。大形も何か秘密を持っているようで…?

本筋に関わる感想

6年1組のメンバー

卒業式とあって、シリーズを彩ってきたチョコのクラスメイトたちが揃って登場します。最終巻+スピンオフがあるようですが、最終巻はおそらく魔界での冒険でしょう。しっかりクラスメイト全員が登場するのは19巻が最後かもしれませんね。卒業式や黒板アートの場面では、丁寧にクラスメイト全員の描写がされていました。

シリーズ開始時はメグ、舞ちゃん、百合ちゃん、ショウくん、エロエース、横綱+松岡先生と限られた登場人物であり、その他のキャラは読者投稿で決定されていきました。5年生編11巻にかけて、段々クラスの座席表が埋まっていくワクワク感! その後は30巻近くかけて様々なエピソードが描かれ、クラスメイト全員に親しみが持てるように。ここまで大人数のキャラクターを出していても、それぞれの個性が分かりやすいのが流石児童書ですよね。

また、初期はクラスのリーダー格の女子がクラスを仕切っていて、かなり殺伐とした様子。「友達なんていらない」という一匹狼のチョコや空気を読まないメグはいじめられてもおかしくなさそうな雰囲気が漂っていました。それがこんなに仲の良いクラスになるなんて…。

卒業式練習の呼びかけをスムーズにこなすために、体育館にスマートフォンを持ち込む結束がかたい6年1組。教頭に見つかってこっぴどく叱られますが、松岡先生が全力でかばうという見せ場もあります。

ギュービッド&チョコ VS 暗御留燃阿&大形

終盤に以下の事実が明らかになります。

  • 本当の卒業試験は大形→チョコに対して魔法をかけ、チョコがそれをブロックするという2人の対決のような内容であったこと
  • 水面下で暗御留燃阿とギュービッドがお互いに出し抜き合っていたこと

優等生で出世の鬼だった暗御留燃阿はどんな手を使ってでも弟子を絶対に卒業試験に落としたくありません。たとえ人間の小学生を犠牲にしても、絶対に勝ち抜くつもりです。試験に落ちるのはプライドが許しません。

一方、ギュービッドは何も知らないチョコに対して試験の心得を伝えます。「不合格になってもいいんだぜ。」「失敗するときは、かっこよく失敗しろ。」というのです。同じ布団で眠りながら、チョコは選ぶべき道を決心します。ここに至るまでの一連の流れは卒業試験前最後の黒魔女修行として描かれており、ぐっとくる台詞や描写のオンパレードでした。凛としたギュービッドと可愛らしいチョコの挿絵も最高で、読んでいて感慨深くなりました。

ただし出世の鬼時代と違って、今の暗御留燃阿は大事な親友であるギュービッドや弟子のチョコのことを考えて冷静に合理的な選択をしているのです。それを理解しつつもその考えには賛同できないチョコ。暗御留燃阿に対するチョコの心情描写がきっぱりとしていて頼もしさを感じました。

ギュービッド&チョコと暗御留燃阿&大形の間にある価値観の違いが最終巻でもキーになるのかなと思います。チョコと大形は間違いなく両想いのような雰囲気ですから、その結末も気になるところ。また、今巻の暗御留燃阿は大形との良好な関係が窺える冗談を飛ばすなど、お茶目なお姉さん感もあって良いですね。

やっぱり主人公師弟の絆がいい!

おばあちゃんからスマホをもらったチョコに使い方を教えるギュービッド。黒魔女修行が終わっても、ひとりの大人として生きていく術を教えるのが保護者っぽくて良いなと思いました。スマホの使い方やマナーが語られており、現役読者層には役立ちそうな内容が多かったです。ある程度成長してからスマホを手にした世代としては、ちゃんと使い方やマナーを教わる機会がなかったので新鮮な気持ちで読めました。

終盤、大事な師匠と離れ離れになる覚悟を決めて、自分の信念とギュービッドの教えを貫くチョコ。過去巻では一緒にいたいがために魔界を捨てることを提案するなど(6年生編5巻)、チョコのギュービッドに対する感情は重いです。この巻でも離れたくない、ずっとこのままでいたいという想いが切実に語られています。

あたしは、ギュービッドさまとお別れになる。シャッターを切ったその瞬間に、二度と会えなくなる……。つらいよ。悲しいよ。さびしいよ。 シャッターを切りたくないよ。(19巻より)

それだけに、ラストの「さよなら、ギュービッドさま」という覚悟を決めた主人公らしい強さのある台詞は印象的でした。

あとがきは作者と登場キャラの対談というメタな内容なのですが、その中で「シリーズのなかで一番楽しみしている、力を入れていることはチョコとギュービッドの会話シーン」という旨が書かれていました。それは私がこのシリーズに求めているもので、主人公師弟の活躍と終結(別れ?)を最後まで見届けたいというのが購読意欲になっていました。完結を前に改めて作者から示されると期待は高まりますね。

5月、シリーズ完結の一報

7月発売の20巻を以て17年続いたシリーズを完結するようです。19巻のタイトルや内容から「完結が近い」というのは十分感じ取っていました。5年生編も20巻完結だったため、キリが良い数字で終わるんだろうな、ということも。

「遂に…!」と「やっぱりか」という気持ちが同時に浮かび、驚きと納得が入り混じった感情になりました。もうチョコとギュービッドの新しい物語は読めないんだなあという寂しさはあります。しかし無事に完結までたどり着けそうなこと、長年待ち望んでいた物語の終結を読めるのは有難く、嬉しいことです。

完結の一報により、「黒魔女さん」「若おかみ」という言葉がトレンド入りし、直後はこのブログの閲覧数も急増しました。『若おかみは小学生!』シリーズは小説完結から10年、アニメ映画公開から5年が経過しているのにトレンドに入るのが凄いですね。2000年代後半~の青い鳥文庫での2大看板なだけはあります。

次巻完結「黒魔女さんと最後の戦い」

青い鳥文庫公式サイトに既にあらすじが出ていますね。

魔プリを使い、卒業試験を強制終了する方法を選んだチョコ。
魔界から追放され、ギュービッドとはお別れ……になるはずだった。
でも、なにかおかしい。ほんとうに魔力はなくなったのかな?
確かめることができず、混乱しているとき、
皇太子とギュービッドの婚約の儀式をじゃましようとしている者たちがいると聞き、
チョコは、魔界に乗り込むことに! 
つぎつぎ現れる魔物たち。かけられる意味深なことば。
絶体絶命のピンチで明らかになる、思いがけない真実とは!?
大人気シリーズ本編、ついに完結!(公式サイトより)

ギュービッドの想い人の皇太子は5年生編1巻から登場していたエクソノーム王子。作者考案のオリジナルキャラです。1巻から堕落した王族として情けない姿を見せ、7巻「黒魔女さんのハロウィーン」ではギュービッドを裏切って敵に売る。その後も煮え切らない態度を見せるなど、シリーズの展開にスパイスを利かせるキャラですね。20巻で婚約ということですから、本筋に関わってくるのが楽しみです。

今巻で丁寧に描かれたチョコとギュービッドの絆、浮き彫りになる暗御留燃阿&大形師弟との違い、登場は多くなくとも要所でいい役割だった桃花ちゃんetc.
最終巻での総括に向けて、色々な要素が散りばめられた19巻でした。

スピンオフ作品に期待

青い鳥文庫公式サイトの★黒魔女さんの キャラ&魔法をつくろう★(6/1更新)では以下3つのスピンオフ作品の企画が明かされています!これは嬉しいです。

・魔女学校物語・ギュービッド編
・東海寺阿修羅と麻倉良太郎の事件簿
・大形京の幽雅な日常

まずは最終巻を味わって、その後にも楽しみを残せますね。他の候補も含めた投票結果が載っていたのですが、意外に拮抗していて驚きました。

 

本編としては最終巻を残すのみで寂しいですが、完結を読むのが楽しみです!
お読みいただき、ありがとうございました。

 

にほんブログ村 小説ブログへ
にほんブログ村