六等星の瞬き

ひっそりと本(児童書)について書きます。たまに雑記も。

神戸のジャイアントパンダ「タンタン」の返還(帰国)について思うこと

2020年8月現在、日本には3施設に10頭のジャイアントパンダがいます。上野動物園和歌山県の白浜にあるアドベンチャーワールド、そして兵庫県神戸市の王子動物園。大都会のオアシスで常に大混雑の上野、赤ちゃんパンダが次々と誕生する白浜に比べ、神戸のパンダはいささか知名度が低いように思います。

神戸・王子動物園のパンダ

王子動物園にはメスの旦旦(タンタン)が飼育されています。来日したのは2000年。阪神淡路大震災の復興の意味を込めてオスの興興(コウコウ)と雌雄のつがいでやってきました。

タンタンは年齢25才(1995/9/16生)。飼育下でも寿命は大体30年ほどらしいので、おばあちゃんパンダです。ただ、このタンタン! 年齢を感じさせないミラクルな可愛さなんです。しかも可愛いだけでない、癖になる魅力を秘めています。

そんなタンタンが神戸にいるのも、残り少ないかもしれません。去る7月には中国からの貸与期限が切れ、返還が決定されました。コロナ禍がなければ、既に中国に渡っていたはずです。様子見状態で正式な渡航日程は発表されていません。

神戸市立王子動物園のシャイなパンダ タンタン

  • 飼育員さんのタンタン愛が垣間見れる王子動物園公式Twitter
    動物園の公式なので、他の動物も登場。癒し度120%。

パンダの魅力に気づいたのは最近

園内のアイドル・人気者というイメージが先行しがちな動物。その見かけに反してクマ科の動物で、黒い縁取りの奥の目は意外に怖い。以前は「白黒の珍しい熊というだけで、政治や外交・ビジネスに利用される哀れな動物だな」という程度にしか思っていなかったんです。ひねくれていますが、つい最近までのパンダに対する認識です。

ところが、王子動物園からパンダがいなくなることを聞き、ひょんなことから動画や画像を見て、パンダに魅了される人の気持ちが分かりました。飼育員さんがアップする写真や動画はパンダの知られざる一面を捉えていて意外性があります。親しみやすい動物のようでいて、その生態をあまり知らなかったことに気づきました。

タンタンのみならず、上野・白浜それぞれの個体で個性があるんですね。顔の違い、体格の違い…。予想不可能な行動、「中におっちゃん入ってるやろ!」という雰囲気の仕草。とことん不思議な動物だなと感じる今日この頃。野生ではどんな生活をしているんだろうかと疑問に思います。

「可愛い」の裏には影もある タンタンの20年間

王子動物園で暮らしているタンタンは10年前に雄のコウコウが死んで以来、1頭で飼育されています。子孫も残していません。

雄のコウコウを巡る話がなんとも悲哀に満ちています。2000年に一緒に来日したコウコウは1代目。繁殖がうまくいかず、2002年に中国に返還されました。その後、1代目コウコウは雌だったことが発覚したとか…。

その後、二代目コウコウが来日。自然交配がうまくいかず、人工授精での繁殖を試みたものの死産。そのあと出産した赤ちゃんも生後4日で死亡します。

更にコウコウは2010年、精子採取のための麻酔から覚醒中に心肺停止により死亡します。なんて過酷な死に方なんでしょうか。パンダの繁殖で人工授精は珍しくないといいますし、当時の状況は分かりませんが、この事実はインパクトがあります。一般的に「可愛い」とされる動物を人間は人と同一視して可愛がる傾向がありますが、もしこれが人間相手だったら大変な出来事です。

人々を魅了する希少な動物は運命に翻弄される。パンダに限らないことですが、表層だけではない、様々な角度から見ることで違った印象が生まれます。

  • 王子動物園の20年間の経緯に関する記事↓
    読み応えがあるし、掲載されている写真が全部素晴らしい。コウコウもいいなあ。

動物園のアイドルから考えさせられる、切り離せない人間のエゴ

動物園というのは人々の憩いの場であり、貴重な動物たちを見ることができる施設でありますが、根本的に考えると自然の摂理とは全く相容れないものです。世界各国の様々な環境下で暮らす動物が1か所に集められ、ずっと人間に見られている。動物の間でも「人気」が存在し、アイドル的存在になっていたりする。その「人気」を決めるのは人間の価値観。

各施設の飼育員さんや職員さんは、動物が生きやすいように健康を観察したり、工夫を凝らしたりしています。昔と比べて展示の方法もより自然に近い環境へ改善されていることと思います。それでもやっぱり、動物園という施設自体が不思議なシステムですよね。

 

 今回、タンタンが中国に返還されることを受けて、「生まれた故郷に帰って余生を過ごしてほしい」と思う人、「帰らないでほしい」と思う人、様々な立場からの反応があったと思います。

前者は高齢の個体の飼育に長けている中国の施設、環境もパンダに合っている中ですごす方がいいという考え。今回の返還理由でもあります。もともと単独行動する動物とはいえ、他のパンダの気配くらいは感じられた方がいいのかもしれません。環境面でも、もっと高齢になれば夏の猛暑は厳しい。このあたりは王子動物園がどんなに頑張ってもクリアするのは難しいですね。異国の地に送られたまま生涯を閉じるのも寂しい話です。

ただ「望郷」という概念自体、人間の価値観ですし、最後に故郷に帰ることが本当に良いかどうかは何とも言えません。普通に考えて20年間も住み慣れた場所を離れて移送されるのは相当負担になると思います。人間ですら20年は長いですから、寿命約30年のパンダからしたら尚更でしょう。

後者の「帰らないでほしい」という考えは、タンタンを見れなくなるのは寂しい。今更住み慣れた場所を離れるのはかえって負担かもしれない。王子動物園ほど手厚く飼育してくれるところはないのではないか。このような考えに基づいているのでしょう。素直な気持ちで「寂しい」というのも良く分かる。

どちらの立場も理解できるからこそ、「正解」はないと思います。選択は二者択一で、実践してみないと結果は分かりません。後戻りできない選択でもある。でも、いくら動物のことを思って思案しても、人間のエゴを含んだ価値観からは切り離せないんですよね。一度、野生にいる動物を飼育して人間の管理下に置いてしまうと、その歪さから抜け出せなくなってしまう。「タンタン、どうしたいー?」って聞ければいいんですけどね。聞けたところで、各国の思惑に翻弄されるかもしれませんが…。

最後に タンタンの魅力と王子動物園について

パンダとしては小柄なぽってり体型、短めの手足、ふわふわした顔。表情(?)豊かで、縁取りの奥のつぶらな優しい瞳が幸福感を与えてくれる。ちょこんと座って控えめに人参をポリポリしたかと思うと、竹や笹を豪快に折る。咀嚼するときに顎の筋肉と連動して、耳がピコピコ動くのもたまりません。目を糸のように細めて食べる姿は何とも美味しそう。だけどグルメで、気に入らないと食べない。そんなクールさがあるのも良いギャップ。

可愛いだけではないミステリアスさを秘めており、日本に来てからの背景も相まって「何を考えてるんだろう」と思わせる雰囲気を纏う。可愛さの裏の影や人間のエゴについて考えてしまったのは、この独特の雰囲気に起因しているのかもしれません。

パンダに興味がない人でも、見ていたら幸せになってしまう。おそろしい子ですね…。動きはゆったりで、白浜や上野に比べると地味目ですが、癒し効果が凄いです。

 

現在、タンタンを見るには抽選制になっています(返還発表後の混雑緩和、感染対策のため)。王子動物園は神戸の市街地、背後に六甲山系を望む風光明媚な公園の中にあります。スポーツセンターやスタジアム、市民プール、異人館の旧ハンター邸等、動物園以外にも様々な見所があります。パンダ以外にも、主な動物はほとんどいるイメージです。

※9/28以降、平日は抽選なしで観覧できるそうです。休日は引き続き抽選制とのこと。

 

最寄り駅である阪急「王子公園」駅は待合室、ホーム上、改札付近に至るまで、パンダの絵柄が描かれています。園に向かう道にはパンダの写真が入ったマンホール、園に到着したらパンダのアイコン…。潔いほどのパンダ推しが伝わりますが、タンタンが帰ってしまうと変更されてしまうのでしょうか。パンダがいなくなっても、過去の賑わいを偲ばせるパンダ尽くしはそのままにしてほしいです。現実的に考えて、再度神戸にパンダが来るというのは厳しいと思いますしね…。

動物の命を預かる飼育員さん、大変な仕事です。加えて、今はTwitterなどでの広報活動の仕事も担当しているのには頭が下がります。動物園とは縁遠い生活をしていたので、今回調べてみて初めて知りました。時代は変わっているんですね。

色々と人間のエゴだの影だの書いていますが、「タンタン可愛い」「王子動物園は良い」ということを一番伝えたかった記事だったりします。

お読みいただき、ありがとうございました。

 

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