六等星の瞬き

ひっそりと本(児童書)について書きます。たまに雑記も。

新刊『黒魔女さんの夏休み』少しネタバレ感想

イラスト担当、藤田香先生の訃報後初めての新刊。過去一度でも藤田先生のイラストに魅了された人は買ってみてほしい一冊です。「長らく読んでないなあ」という方もです。

6年1組編6巻 黒魔女さんの夏休み
石崎洋司作 亜沙美絵 藤田香カバー原案

6年1組 黒魔女さんが通る!! 06 黒魔女さんの夏休み (講談社青い鳥文庫)

藤田香先生の訃報

去る2018年7月に逝去されたイラスト担当の藤田香先生。青い鳥文庫の公式サイトに掲載されていた訃報に関して、本ブログの過去記事より。

 


ギュービッドさまのキャラクターデザインは故・藤田香先生の構想によるところが大きいそうです。2018年8月に更新された青い鳥文庫公式サイトで作者の石崎先生が明かされていました。「外見に関しては美人ということしか原稿に書いていないのに,練りこまれたラフスケッチがおくられてきた!」という旨の発言をされています。実際のラフスケッチも載っていたのですが、そこからほぼ変更点なくシリーズが始まっている印象でした〈中略〉

公式サイトの読者のページは石崎先生とメインキャラの対話形式という、少々メタな手法が取られています。この8月の回は「藤田先生、ありがとうトーク」と題されていました。たった1か月で更新されるのがもったいないくらい貴重な情報が載っておりました。青い鳥文庫の公式サイトを頻繁に見る人はそんなに多くない気が…。かなり昔のエピソードも明かされていて、特に昔の読者は感慨深いと思います。黒魔女さんが通る‼(「おもしろい話が読みたい!青龍編」①) - 六等星の瞬き


 上記にあるように、通常1か月限りで更新される内容なのですが、サイト分に加筆したものが新刊6巻(黒魔女さんの夏休み)には収録されています。ラフスケッチはギュービッドさまとチョコ(ゴスロリとオーバーオール)のものが掲載されていて読み応えがあります。2006年のサイン会についての話題もあったので、過去の読者にも向けられているのでしょうか。

石崎先生や亜沙美先生、編集部の方が一連の出来事を大切に扱っていることが凄く伝わってきます。でもやっぱり悲しいです。黒魔女さんの単行本に藤田先生の訃報が載る日が来るなど夢にも思わず、完結まで素敵な絵が見られることに何の不安も抱いていませんでした。新刊の著者紹介の最後の文字が切なすぎるのです。10年前の巻の文末の「いつかいっぱいよその国に行ってみたい」と対比してしまうと特に…。

そもそも小学生の頃は10年後に新刊が出ていることも、それを自分が買っていることも考えていませんでした。長く楽しませてもらっていると、様々なことが起こりうるのですね。十年一昔とは儚いものだと感じています。

紙媒体を購読したことで事実を実感し、喪失感を味わいました。私は特に初期や黒魔女の騎士の挿絵が狂おしいほど好きだったんです…。

自分自身の感傷とは別に、新刊で初めて事実を知る本来の対象層の読者ちゃんたちのことを考えてしまいます。友達と盛り上がりながら楽しく読むようなシリーズで悲しい知らせはショックでしょう。

巻末では、いつも通りのキャラトーク追悼と前向きなメッセージを両立させています。物語の質のみならず、そういう配慮が効いている青い鳥文庫はやっぱり素敵です。私は大人の読者だけど「いつまでも子供のものであってほしい」と思います。

個人的感想(ネタばれあり)

本筋はネタバレなしですが、細部に関しては言及します。本編を読む前でも影響がないとは思いますが、何も知らずに読みたい方はご注意を。

シリーズ26巻目にして、色んな要素てんこ盛りでした。「若おかみは小学生!」とのコラボや魔女学校物語の話題が登場していましたね。表紙と帯が日常回っぽいのですが、思わぬパンチがありました。

新たな局面

本編においては一貫したチョコの一人称語りが特徴的でしたが、今回はお馴染みのあの人の一人称語りから始まり、ちょっと驚きました。思えばホワイトデーの16巻もマリーちゃん目線のプロローグでした。でも登場頻度が全然違うキャラであり、今回は通常の3話読み切り形式。あの人は今後、ますます重要な人物になっていきそうです。

意外な新登場人物も続々…。初めて出てきた魔界のルールもあり、更なる展開の予感。「今後の布石かな?」と思う点もありました。段階を踏んで様々な要素を出し、細部に伏線を張っているのが本当に凄い…!

初期から設定として登場しているギュービッドさまの弟・妹やママもこれから出てくるのかな?もしそうなら、そのときには本当の最終回の目前という気がします。修行終了間近の魔界編で描かれそう…。

なんか新しい感じ!

夏休みで夏祭りに海水浴という今までにないシチュエーションだからか、新鮮な雰囲気でした。西洋魔術というよりも和製オカルトな要素もあります。

赤毛のアンを読み返したくなった

今回のお話では赤毛のアンをモチーフに使っている部分がありました。割と熱心なアン読者でしたが、忘れかけていたエピソードだったので懐かしい気持ちになりました。

黒魔女さんシリーズは世界名作児童文学を話のネタに出したり、モチーフに使うことが多いです。シンデレラや白雪姫は言わずもがなですが、対象層には馴染みが薄いかもしれない文学作品も登場します。自然と「どんな話だろう。読んでみたいな」と感じさせるのです。

一例として4巻「マクベス」、9巻「ナルニア国物語」、10巻「大草原の小さな家」、12巻「ムーミン」、「クラバート」、「蠅の王」、「塵よりよみがえり」etc…。雨月物語百人一首も登場します。

盤石だなあ。師弟コンビ

巻を追うごとに親密度が増していくメイン師弟。5年生編の夏休みでは、チョコはギュービッドさまに対して「あんた」だの「性悪黒魔女」だの言っています。段々ソフトになっていき、今回ついに「尊敬」がモノローグで入りましたよ!

ほのぼのするのですが、同時に「修行を終えて魔界の存在と会えなくなったらどうするのだろう?」という一抹の怖さがあります。前巻ではナチュラルに「魔界を捨てること」を勧めるチョコに驚きました…。長い空白期間を経て、数年ぶりにシリーズを読んだので自分の想像を超えて余計に衝撃でした。

ともあれ、もはやチョコも低級黒魔女ではなく、四六時中一緒に修行しなくとも通じ合ってい安心感ありますね。長く続くシリーズならではの楽しみ方です。

ただ、今回はチョコのギュービッドさまの外見描写がなかったような…。お馴染み、「さらさらの銀髪、レモン色の瞳、白い肌etc」ってやつです!毎回、地味に楽しみにしているんですよ(笑)。

雑感

数巻前から引き続き、亜沙美先生の絵。一層黒魔女感が増しており、プロローグの本の挿絵は藤田先生かと思いました。16頁のギュービッドさまは可愛いし、43頁の暗御留燃阿はえらく美人…! プロの仕事ですね。

今回桃花ちゃんが可愛かったです。フナムシのくだりとか!暗御留燃阿や森川さんも登場して嬉しい限りです。昔から好きだったのは黒魔女さん勢でした。願望として魔女学校物語・ギュービッドさまと同級生世代が読みたいです。

今回は東海寺君、麻倉君、大形君が大活躍だったのに、私の感想には見事なまでに登場していません(笑)。嫌いとかではなく、物語の一要素として、あまり入れ込まずに見ている節があります。チョコの恋の相手(描かれるとすれば)に特に拘りはありません。でも、今も昔も黒魔女さんの魅力はチョコの恋愛じゃないと思っているので、恋愛要素が強くなりすぎるとびっくりするかも…。

本編は波乱を予感させるラストだったので、続きが気になります。公式サイトの情報では新刊はなんと来年1月だそうですよ!早くないですか⁉

嬉しいけれど、石崎先生には健康第一で書いてほしいですね。勿論、亜沙美先生もです。どんなジャンルでもクリエーターには「その人にしか作れない」唯一無二の作品があると実感する今日この頃です。

例によって私見満載の感想。お読みいただきありがとうございます。

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