六等星の瞬き

ひっそりと本(児童書)について書きます。たまに雑記も。

『若おかみは小学生!』と『黒魔女さんが通る‼』(青い鳥文庫の二大看板)

90年代以降生まれのかつての少年少女は、この2作品に聞き覚えありませんか?

令丈ヒロ子作、亜沙美絵/石崎洋司作、藤田香&亜沙美絵。両作品のコラボも3作刊行されています(2018年10月現在)。図書館では、大抵貸し出し中なので、今の子供たちからも人気を博しているのでしょうが、若おかみの方は2013年に完結済みですので「かつての少年少女」と表現しました。

私の小学生当時は図書館に置かれていなかったので、両作品頑張って購入していました。黒魔女さん初読時の衝撃→買い始める→書店で近いところにある若おかみ→その他作品という流れで完全なる青い鳥文庫信者になっていた小学校時代です。今は図書館でも全巻揃っていることに、驚きを隠せません…!

『若おかみは小学生』は2018年10月現在、テレビアニメ、劇場版アニメが製作されています。映画は現在、絶賛公開中です。昔読んでいた作品を高クオリティな銀幕版で見れるなんて羨ましいじゃないか…!若おかみの高評価を目にするたび、そう感じます。

黒魔女さんもシンデレラやハロウィーン、クリスマスあたりなら十分いけそうです(※既にアニメ化済み)。アマゾンプライムで配信されているので、作品自体の第一印象になる可能性も低くはないのですが、個人的には正直なんというか…何も言うまいという感じの仕上がりでした。原作の良い所と伏線をすべてカットしてショートにしてしまった感じでしたね。メディアミックスに際して、何故こんなに差がついてしまったのでしょうか。

愚痴っていても仕方がないので、特定の世代にはクリティカルヒットするであろう2作品の魅力を自分なりに書いていきます。

両作品の関係

この2作品は同じ系統、似ている作品としてあげられることが多いです。片方が話題になると、必ずもう片方の話題も出てきます。それが二大看板であるゆえんなのですが。

例えば「ああー若おかみ懐かしい!黒魔女さんも読んでた。」「クラスの女子が派閥に分かれていた。」「黒魔女さんは読んでないけど若おかみ好きだった。」「両方読んでたけど黒魔女派。」等々…。どちらかの読者で、もう一方を聞いたことも見たこともない、という人は少ないのではないでしょうか。

この2作品はセット、そういう印象がコラボ作品で決定的になったと思いますが、正反対な部分も多くあります。両方好きで読んでいる人でも「私はこっち派!」という力点がハッキリしていて、「選べない…。」という人は多くない印象。

かくいう私もそうです。両作品からガッツリ影響を受けつつも、黒魔女派です。自分の性格はチョコに近く、ホラー感が好き。ギュービッドさまに憧れていたのが主な理由です。このように好みが顕著に出るという点に、両者の差異が現れているのではないでしょうか。

まず主人公の性格からして違います。おっこは誰とでもすぐに親しくなれるタイプ。チョコは友達なんていらない、一人が好きというタイプ。それでもコラボが成り立つのはチョコが特定の人と群れる性格ではないからだと思います。一人が好きと言いながら、なんだかんだと人助けをしていることも多いです。

同じように括られがちな若おかみと黒魔女さん、でも全く違う部分があってそれぞれ単品とコラボで独自の世界が広がっています。正反対だからこそ良い部分も沢山です。私はコラボ作品よりも、単品で楽しむのが一番だと思っています。どちらが好きかは個人の好みだと思います。

以下、自分が思う共通点と相違点をまとめてみました。 

共通点

主人公の名前:関織子(若おかみ)と黒鳥千代子(黒魔女)

2000年代の小学生にしては、いささか古風で奥ゆかしい感じです。
でも愛称にすると、「おっこ」と「チョコ」。一気に可愛らしく、親しみやすい雰囲気に。他の作品ともかぶらなさそう。

異世界の人 or 人外が登場する

若おかみ1巻では交通事故で両親を亡くしたおっこが祖母の旅館・春の屋に。そこで旅館に住み着く幽霊(作中ではユーレイ)の少年・ウリ坊と出会い、跡継ぎとして若女将修行を始める。巻を追うごとに新たなユーレイ小鬼なども登場。絆が描かれます。タイトルからは想像しがたいですが、16巻以降は魔界が舞台になることも。

黒魔女はタイトルの通り、魔界出身の黒魔女がやってきて、ひとつ屋根の下、チョコは黒魔法修行に励みます。他にも黒魔女が沢山登場、魔界の住人も多い。魔界で冒険するシリアス長編もある。

どちらも修行もの(2人とも苦労性!)

おっこは女将であるおばあちゃんから礼儀作法や接客をみっちりと指導されています。失敗が連続することもある(今読むと1巻は結構シビアでしんどいです)。癖の強いお客さんやイタズラな小鬼に振り回されるも、明るく邁進します。

チョコは師匠のギュービッドさまと共に朝五時起き、午後練、夜練の黒魔法修行をこなしています。黒魔法がらみの騒動で学校生活もドタバタ。4巻や7巻、10巻では魔界を奔走します。師匠や同級生に何かと振り回されるも、巻を追うごとに沢山の人に囲まれていきます。

主人公の性格

一見すると全然違うけど、根底が同じ。2人とも一本気で曲がったことが嫌い。根性がある。ただ、おっこの方が大人っぽくてお姉さんらしい。

正反対ポイント

修行の中身(目指している方向性が全く違う)

旅館=人を癒し、美味しい料理や温泉で元気になってもらう。煩雑な日常や喧騒を忘れてくつろぐ。花の湯温泉プリンをはじめとして美味しそうな食べ物が登場。

黒魔法=人を貶め、堕落させる。作中では実際の用途での使用は少ないが、この設定はしっかり言及されている。

例)3巻、ギュービッドさまの「黒魔女は人を呪うのが専門」発言。8巻、魔女学校(黒魔女の出身校)の生徒が行う「人の心に憎しみを植え付ける実習」。ちなみに魔界の住人の好物はいわゆるゲテモノ。

字面にすると凄みがありますね!青い鳥文庫の設定にしては攻めている気が…。作者の石崎先生はもともと少しダークな話が多い印象です。


挿絵の雰囲気(似てるようで違う)

若おかみの亜沙美先生:明るく可愛らしい感じ。線が細めで陰影は少ない。
黒魔女の故・藤田先生:陰影や服の光沢感をはっきりつける感じ。初期に顕著だが、挿絵は可愛くて綺麗ななかにも影を含む。ストーリー上、夜の場面も多く、怪しさ満載な雰囲気をイラストが引き立てていた。

今後は黒魔女さんのイラストを亜沙美先生が正式に引き継ぐそうです。どんな化学変化が起きるのでしょうか。新たな局面に差し掛かろうとしています。

幽霊(ユーレイ)の存在

若おかみの主要キャラのユーレイ。黒魔女さんでは「霊なんていない。人間は死んだら灰になって『はい、さよなら』。」というスタンスが1巻から登場しています。

正反対ですよ!「コラボではどうするのよ⁉」と思いましたが、コラボの世界では「幽霊は存在しないけどユーレイはいる」ということになっています。力技感がありますけど面白い(笑)。表記法に幅がある日本語ならではの工夫なのかもしれません。

 最後に

少しだけ思いの丈を。こんなことを書くこと自体、作家さんや編集部の方に失礼かもしれませんが、この2作品は大人に侮られがちな気がします。

頭の固い大人にはいるんです。表紙や絵、文体だけで児童書を判断する人が。内実を見もせず、子供にひたすら「教育に良さそう」な国語教材的な本を勧める人が。

こういう観点では、軽視されやすいのがこの2作。もちろん国語教材は良い作品です。心に残る作品も多くあります。でも小学生の読書の幅を狭めるのはいかがなものでしょうか。保護者にとって見慣れないものだからといって「そんなもの読んで」等の台詞は禁句だと思います。そういう言葉で読書を辞めてしまう子もいるんじゃないかな?

私自身も岩波の古典的児童文庫や偕成社文庫が好きで、可愛いイラスト系の児童書をバカにしている節がありました。黒魔女さんも当時友人から勧められなければ、まず手に取っていなかったでしょう。先入観は良くないですね…。

 新たなタイプの本に出逢ったことで、新たな世界が経験できました。図書館には無かった他の本に出逢えたり、本を買い始めるようになりました。本に熱中しすぎたせいか、漫画やゲームにほとんど手を出さなかったなあ…。

心の底から面白い!と思える本に出逢えたら、自然と小学生以降も読書が好きでいられると思います。私は今も本の虫レベルで本が好きですが、読書好き=絶対的に良いこと、とは思っていません。読んだ方がいいとも思いません。それでも自分にとっては確実に世界が広がるもの、時に救いとなってくれるものと信じています。

この2作は、過去10年あまりにわたって実際の小学生たちを夢中にさせてきたもの。そもそも子供を夢中にできる作品というのは真に質が高く、並大抵の人では書けないと思います。娯楽は沢山あるのに、わざわざ少ないお小遣いをはたいて買おうと思わせるだけの力が必要です。今後も子供たちに愛される作品であってほしいと願っています。

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