六等星の瞬き

ひっそりと本(児童書)について書きます。たまに雑記も。

『青い天使』(フランスと日本を舞台に、少女の苦難と成長)紹介①

倉橋燿子作、牧野鈴子絵。青い鳥文庫で全9巻。

フランスと日本のハーフの少女、チナの成長記です。苦労や困難に立ち向かい、時には相手を赦し、受け入れながら進んでいくチナはとっても眩しく見えます。殺伐とした現代にこそ、こういう本が書店に並べられて多くの人の手に取られてほしい…!

第1巻の初版が1997年。不朽の名作だと思うのですが、絶版。私の周りでも読んでいた人が発見できません…。同作者の『パセリ伝説』は比較的若い層の知名度がある印象ですが、私は1巻しか読んだことがありません。倉橋先生といえば「いちご」、「ラッキーチャーム」、「ペガサスの翼」、「ホーリースクール」あたりが浮かびます。図書館に揃っていたので夢中で読みましたね。

自分は図書館で読んでいたので現物が手元になく、紹介することに心もとなさを感じますが書いていきたいと思います。 

どんな話?

ファッションデザイナーのママとふたり暮らしのチナは、パパがフランス人のハーフ。ママが仕事から帰ってくるまでのあいだ、チナは同級生の京子のうちでお世話になっている。明るくておてんばのチナと、やさしくておっとりしている京子はまるっきり性格がちがうけど、夕食もお風呂もいっしょのふたりは、まるで姉妹のようになかがいい。チナはいまの生活が気にいっていた。けれどもママのつとめている会社が倒産してしまって…(一巻のあらすじより)。

チナはパパに出会ったことがなく、今風の言い方をすれば、チナのママはシングルマザー。ママは仕事が忙しいけれど、チナとは仲が良く、東京で自由な二人暮らしを送っていました。けれども会社が倒産したことでママは自分の人生に迷い始めます。ママの決断は「パリに行って、もう一度デザイナーとしての再起をかけてみる」ということでした。

パリでの暮らしに目途が立つまで、ママの生まれ故郷の島の実家でチナを預かってもらうことにします。話はとんとん拍子で進んでいき、チナは馴染んだ東京を離れ、単身島へ渡ります。この出立は波乱万丈なチナの成長記の幕開けでした。ざっくり分けると1~4巻で島(東京都内の離島)編5巻でパリ生活スタート、9巻は再び日本に戻ります。

青い天使(1) (講談社青い鳥文庫)青い天使(5) (講談社青い鳥文庫)

島での苦難

東京ではおてんばで明るく、目立つ容貌からも多くの友人に囲まれていたチナ。しかし島では全く違う生活が待っていました。チョコレート色の髪と青い瞳は「かっこいい」ものではなく「外人」の象徴。父親がいないチナは「千春さん(ママの名前)は結婚もせずに外人の子を産んだ」という陰口に苦しみます。住人全員が知り合いといえるほどの規模の島は、噂もすぐに広まるのです。

預かり先のおばさんに気兼ねしつつ、意地悪ないとこにいじめられ、学校でも孤立する日々。それでもチナは自分の道を切り開き、皆の心を溶かしていきます。手に入れた友情やいとこたちとの本気のぶつかり合いが見所です。島の豊かな自然海の青の描写がとっても素敵です。

パリでの生活

チナはフランス人でもありながら、母国には行ったことがありませんでした。外見は邦人と思われるけども心の中は異邦人という状況です。島での生活と正反対ですね。幸いユニークな仲間に恵まれ、日本とは全く違う学校生活にも慣れていきます。

しかしその一方で、チナの出生の秘密が明かされてゆきます。最初の方から伏線は張られていたのですが、大人たちはチナにひた隠しにしていました。その秘密はチナを傷つけ乗り越える覚悟が必要と判断されていたからです。その不信感から、仲が良かったママともギクシャクしてしまいますが、それらを乗り越えた時、チナはもっと強くなっていました。

パリが舞台ですが、様々な要素をかなり詰め込んでいます。

チナの出生、本当のパパ、尊い友情と別離、家族とは何か、戦争と平和、大人たちの生き様、甘酸っぱい恋愛等々…。それでいて毎巻スリル満載で、展開に引き込まれてしまうのです。自身の成長によって感じ方が変わる部分も多くあります。

 シリーズ全体の流れとポイントを概観しましたが、魅力は語り切れない!というわけで、別記事で魅力や感想を書いてみたいなと思います。

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