六等星の瞬き

ひっそりと本(児童書)について書きます。たまに雑記も。

黒魔女さんが通る‼(「おもしろい話が読みたい!青龍編」②)ストーリーについて

15年続く(2020年5月現在)黒魔女さんが通る‼シリーズにも原点となったお話があります。それは通常の青い鳥文庫単行本ではなく、アンソロジー短編集に収録されています。
その名も「おもしろい話が読みたい!青龍編」。

以前の記事では主人公・チョコとその師匠・ギュービッドさまの出逢いの場面、キャラクターデザインなどについて書いています。

本記事では短編集収録のストーリーについて書いていきます。

この始まりのお話では、決して王道路線ではなかった初期黒魔女さんの世界が色濃く出ています。

 

おもしろい話が読みたい!(青龍編) (Aoitori bunko)

登場人物

巻が進むにつれて、読者考案キャラクターが活躍しますが、以下は作者のオリジナルキャラです。ショウくんはかなり影が薄くなってしまったような…(笑)。

黒鳥千代子:主人公。オカルトマニア。あだ名はチョコ。
紫苑メグ:超ハデハデの女の子。チョコの友達で幼馴染。
一路舞:チョコのクラスメート。秀才で美女。
春野百合:チョコのクラスメート。可愛いタイプ。
三条ショウ:以上の2人と同じクラス。アイドル的存在の男の子。
ギュービッド:チョコが魔界から間違って召喚してしまった黒魔女。チョコに修行をさせようとする。普通の人間には姿が見えない。

ストーリー「ギュービッドさん、南の窓からお入りください」

チョコの部屋でメグ、百合、舞の3人が「キューピットさん」をしている場面から始まります。ショウ君が三人のうち誰が好きなのかをめぐり、新学期早々女子の戦いが勃発、恋占い目当てでオカルトマニアのチョコ宅へ押しかけてきたのです。ネタバレになるので詳しく書きませんが、メグとチョコは舞と百合の策略にはまってしまいます。クラスの権力者の二人に睨まれたメグは、仲間外れ&無視という憂き目にあいます。

チョコはインチキ恋占い&花粉症の鼻づまりのせいで黒魔女・ギュービッドを呼び出してしまいました。ギュービッドはチョコを黒魔女にしたいために、黒魔術でメグの孤立を解決することを提案します。メグの生霊を呼び出し、舞と百合、ショウを散々怖がらせることで、メグへのいじめは収まりました。

一件落着!ところがチョコは自分で黒魔術を使っています。ギュービッドに言わせると、それはもう黒魔女の第一段階。チョコは黒魔女修行をすることに。目標は修行卒業時に「魔術をすべて捨てる」を選び、普通の女の子に戻ること。

個人的、ここが面白いポイント!

独特の雰囲気

導入シーンからのチョコの一人称語りがパンチが効いています。友達なんていらない、一人が好きで冷めている感じ。東京の小学生っぽい標準語だからか、余計に冷たさがあります。

チョコの性格で主人公、それもコメディー作品が成り立つのが凄いと思います。黒魔女さんの魅力の一つです。舞ちゃんはチョコの部屋を気味悪いところ呼ばわりするし(笑)。そのあとの台詞もきつい。即座にウソ泣きできる百合ちゃんも強者すぎます!

ダーク&挿絵のインパク

メグの生霊を呼び出すための依り代を作るのですが、その章タイトルが「呪いの人形、作りました!」。まるで「冷やし中華始めました」みたいなノリ。ポップなのにさらっと怖い…。そして作中ギャルっぽい話し方が多いメグの淡々とした標準語にゾクゾクしますね!

裁縫上手なギュービッドさまが作った服を着たバービー人形はとっても美麗なイラストで描かれていますが、メグの生霊登場シーンは真面目に怖く気味悪いです。全体を通してダークでキリッとした雰囲気があります。

実はこの短編、アニメ化にあたって発売された書き下ろし付きDVDブックに再録されています。挿絵は新規の絵で、アニメや中期の黒魔女さんに合わせてポップで可愛い感じに変わっています。ただ内容や文章に合うのは「おもしろい話が読みたい!」のオリジナル版だと思います。絶版になっていますが、図書館などで探していただきたいです。

本格魔術

生霊の依り代、バービー人形の服はメグの忘れ物のスカーフで作っています。共感呪術(更に感染呪術類感呪術に分類、英国人類学者フレーザーの提唱)をモチーフにしていると思われます。

黒魔女さんシリーズは実際の事柄をエッセンスとしてかなり取り入れています。今でこそ魔術は「絵空事」の色合いが強いですが、キリスト教的支配のなかの「正統と異端」に密接に関わっています。中世以降のヨーロッパでは悪魔学が確立、魔女狩りにも大きな影響を及ぼしました。仲間はずれというのも魔女狩りの基本構造です。

石崎先生は魔術から文化史に至るまで、文献を渉猟されているのだろうと思います。読者層の子供は気づいていないことも多いでしょう。後になって、ふとした機会に「黒魔女さんで見たやつ!」となるのではないでしょうか。私も元ネタに気づき始めたのはつい最近です。

チョコは本質を見抜ける子

 一見児童書の主人公らしくないチョコだけど、大切なことはしっかりと理解している子だと思います。例えばショウ君をめぐる争いに関して「三条君はモノじゃないんだけど」(147頁)。メグへのいじめについて「かわいそう以前の問題として、正々堂々と勝負すればいい。クラスを巻き込んで無視するなんて汚い」(167頁)

チョコには流されない強さがあります。それは後々の巻でも生きてくる美点で、勢いと根性で何とかしてしまう格好良さも備わっていきます。

ここが気になるポイント

チョコが魔法に興味を持ったきっかけは?

なんで魔法に興味を持つことになったかというと、ちょっとわけがある。でもこれは話すと長くなるので、またこんど。

137頁より引用。

 思わせぶりな一文だと思いませんか?既刊は30巻以上出ていますが、理由はまだ明かされていません。0巻(ギュービッドさまとチョコ出会い直前)212頁では低学年から魔女好きであったことは示唆されていました。今後の展開に関係していくのでしょうか?勝手に深読みしただけなので何とも言えませんが…。

シリーズの終着点

青龍編のラストでは、「黒魔女を卒業するその日まで修行を頑張る」というモノローグで締められています。やはりシリーズとしても修行終了が最終回なのかなと思います。

最初に終着点を示していたとしても、人気が振るわなければ無関係でしょう。突然終わります。黒魔女さんは青い鳥文庫の中で確立した人気があるので、最後まで描いてくれるのだろうと思います。

それにストーリー上、数年間を描く必要があります。小学生女子が1年で黒魔女になれたら驚きます…。そういう要素が15年の長寿シリーズになっている理由なのではないかと思います。その点、人気シリーズでも『若おかみは小学生!』だったら、小学校卒業までの一年で終わることがタイトルから明確ですね。

私の勝手な想像ですが、チョコの小学校卒業に黒魔女修行の終わりを合わせるのかな?作中で黒魔女は昇級制ですが、魔界の魔女学校卒業生でも1級か初段なのです。チョコは6年生編5巻の時点で2級。何級を最後にするかは明示されていませんが、意外と終わりが近い気がします。

そもそも修行を終えたところでチョコは「普通の女の子」を選択するのか、魔界の人たちとの関係をどうするのか、気になるところです。まだもう少し先のことでしょうが、最終巻を読んだら満足感と寂しさが湧き上がってくるのだろうと思います。

最後に

無駄にマニアックなうえ、私見が多い紹介記事になってしまいましたが、本筋についてはあまり触れていませんし、ストーリー以外にも見所があります。「黒魔女さんが再熱した…」、「青龍編は読んだことがない」という方がいましたら、ぜひ読んでみてください。単行本とは毛色の異なる雰囲気が楽しめますよ!

お読みいただきありがとうございました。

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