六等星の瞬き

ひっそりと本(児童書)について書きます。たまに雑記も。

NO.6(今にこそ読んでほしい崩壊と再生の物語)

NO.6(ナンバーシックス)/あさのあつこ未来都市《NO.6》を舞台にしたSFファンタジー。全9巻、外伝1巻。

完結・アニメ放送ともに2011年です。作中で近未来と設定されている2013年と2017年は既に過去となってしまいました。それでもこの作品がずっと心に住み続けている人も多いのではないでしょうか。後を引く小説だと思います。

児童書という括りのブログですが、これはヤングアダルト向けの小説です。レーベルは講談社のYAエンターテインメント。同時期の同レーベル作品では『都会のトム&ソーヤ』や『妖怪アパートの幽雅な日常』が有名ですかね。「活字力全開(フルパワー)」をコンセプトに、青い鳥文庫を卒業した子供たち向けの本を刊行しています。

NO.6は一般向けの講談社文庫でも刊行されているのでコンパクトに楽しみたい人はそちらがおススメです。装丁のグラフィックも綺麗です。 

NO.6♯1 (講談社文庫)

NO.6♯1 (講談社文庫)

 

 序盤あらすじ

2013年の未来都市《NO.6》。人類の理想を実現した街で2歳の時から最高ランクのエリートとして育てられた紫苑は、12歳の誕生日の夜、「ネズミ」と名乗る少年に出会ってから運命が急転回。どうしてあの夜、ぼくは窓を開けてしまったんだろう?飢えることも、嘆くことも、戦いも知らずに済んだのに…。(文庫版1巻の背表紙あらすじより)

高い壁に囲まれたNO.6は非常に排他的な理想都市で、内部も階層によって居住区が決められています。

クロノス:選ばれた民のみが住める高級住宅地。紫苑の出身地

ロストタウン:ごみ処理場に隣接した準市民の居住区。

西ブロック:物乞いや溝鼠がうろつく最下層の民が住む地。 

この物語は主に二つの時間軸で構成されています。

①2013年9月7日、紫苑とネズミが12歳。

台風の夜、誕生日を迎えた紫苑と深手を負った少年・ネズミが出逢う。政府によって凶悪犯罪者に指定されていたネズミを助けた紫苑は、一夜にして特別待遇を失う。

②2017年秋から春にかけて、紫苑とネズミ16歳。

エリートの資格をはく奪された紫苑は公園管理の仕事をして学費を工面している。一方で都市内では、人が瞬間的に老化して息絶えるという謎の病が蔓延しはじめ、そのカギを握るのが人に寄生する蜂。その影は紫苑にも忍び寄り、政府の策略により凶悪犯罪者に指定され、追われる身に。市に疑問を持つものを不穏分子とみなし、政府は徹底的に排除しようとする。その中で紫苑も標的になった。ネズミは紫苑を助け、再会した二人は西ブロックへと逃れる。

ネズミと出会ったことで紫苑はクロノス→ロストタウン→西ブロックと客観的に見れば転落していくのですが、紫苑は微塵も後悔していません

上記のあらすじのニュアンスとは裏腹に、飢えも嘆きも戦いにも紫苑はしたたかに生き抜きます。紫苑とネズミという2人の少年の関係性を通して、国家と個人が描かれます。アニメの公式サイトでは「友情というにはあまりに激しく、宿命というにはあまりに切ないふたりの物語」と銘打たれています。

この小説を読んで感じたこと

理想都市の化けの皮が剝がれていく過程では「人は人にどこまで残酷になれるのか」という点を示されます。聴こえの良い「理想」。この小説を読んで、その言葉の意味や内実について再考しました。単に「悪い国家を倒してハッピーエンド」ではないところが最大の魅力だと思います。

現実の世界情勢に目を向けると、答えなんて出ない気がします。内戦・迫害等、嫌なニュースばかりです。それでも考え続ける必要があるのでしょうし、思考停止は一番危険ということを思い知らされます。

ラストには賛否があるようですし、SF小説に完璧な科学的裏付けを求める人にはお勧めできないかもしれませんが、考えさせられる部分が多いです。普段考えが至らないような領域について、目を覚まされる感じです。読むたびに新たな発見があって、小学生のころにはきちんと理解しきれていなかったように思います。ラストまで読んだ直後よりも時間をおくにつれ熟成されていく感覚があるんですよね。不思議な魅力があり、冒頭で書いたように「後を引く」小説だと思います。

「NO.6、途中までなら読んだことあるなあ」という方がいましたら、是非再読してみてはいかがでしょうか。


初読時(小学校6年)の衝撃は今でも鮮烈です。嵐の夜の闖入者、寄生蜂、主人公と幼馴染の会話、社会や人間の暗部等々…。しかも準主人公の名がネズミ。作中、紫苑は初対面のネズミに対して「今まで僕の世界のどこにもなかったものじゃないか」という感想を持っています(原作1巻32頁)。まさに私自身もNO.6という本に対して、そんな第一印象を持ちました。同著者の青い鳥文庫テレパシー少女蘭シリーズ」から入ったので、世界観の違いに驚きました。

YA!エンターテインメント版では挿絵ではなくイメージグラフィックが使われているのですが、その一つ一つが異世界感を醸し出していましたね。あくまで現実的なモチーフなのですが、ここじゃないどこかの雰囲気がありました。登場人物の挿絵が入らないのも良いんですよねえ…。

当時の自分にとっては、大人の階段を上ったような気分になる本ということで印象付けられました。図書館でも人気で、貸し出しが盛んだった気がします。その数年後にアニメ化が決定し、「あのNO.6が⁉」と感じたのを覚えています。

長々と紹介してしまいましたが、以降は巻ごとに気になる部分を考察していこうと思います。

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